第17話 爽やか系イケメンで一人称が僕の奴は大体怪しい(超偏見)

「お疲れ様です。ご主人様」


 ふわりと空からヴィエルジュが舞い降りてくると同時に労いの言葉をかけてくれる。


「おつかれー。ヴィエルジュも大変──」


 こちらも彼女へと労いの声をかけようとしたが、途中で言葉が止まってしまう。


 彼女の制服を見たところ、汚れがひとつもない。さっきまで一対多での戦いだったろうに、その制服は洗いたての様に綺麗な制服姿であった。


「ヴィエルジュからすると赤子の手をひねるよりも容易い戦いだったか」


「この試験よりも、朝にご主人様を起こす方が大変ですね」


「いつもお世話になっております。寝起きは本当にダメなんだよな」


「別に今のままでも良いんですよ。その方がヴィエルジュ流奥義、添い寝起こしを合法的に発動できますので」


 あれは思春期男子には刺激が強すぎて、一日中ムラムラする生殺しだからやめて欲しいんだよな。それで、このドSメイド様はそんな俺を見て楽しむし。


「ご主人様。お姉ちゃんはいかがだったでしょうか?」


「ん……? ああ」


 ヴィエルジュは視線を倒れているフーラに向けてこちらに質問を投げてくる。やはり双子の姉妹。正体は明かさずとも相手のことは気になるご様子。


「流石は天才と言われているだけはあるな。めちゃくちゃ強かったよ。簡単に火の最上級魔法をぶっ放してくるし」


 でも、と俺はヴィエルジュの頭を撫でる。


「今はヴィエルジュの方が圧倒的に強いだろうな」


 そう言ってやると、嬉しそうな顔をしながらも少し複雑そうな顔を見せる。


「それはご主人様から濃いのをヴィエルジュの中に注いでいただいたおかげです」


「あのー、ヴィエルジュさんやい。発言がちょーっと意味深なんですが」


「事実ですので」


「そうなんだろうけど、俺の魔力を送って魔人の呪いを解いたって言ってくれない!? 勘違いしちゃうだろ!」


「時折、疼きますね。また注いで欲しいと願います」


 この子も思春期爆発させてるなぁ。でも、そのおふざけの理由が、『自分が姉を超えているのは俺の魔力のおかげだ』という複雑な感情を隠しているのがバレバレだ。


「ヴィエルジュ」


 ちょっぴり真剣に彼女を諭してやる。


「あの時、俺はお前を補助したに過ぎない。魔人の呪いを克服したのは間違いなくヴィエルジュだ。その強さはお前自身の強さの証なんだからもっと胸を張って良い」


「……はい」


『なんの話かな?』


「「!?」」


 急に不穏な魔力を感じて俺は咄嗟にヴィエルジュと一緒に間合いを取る。


「あはは。ごめん、ごめん。びっくりさせちゃったね」


 爽やかに笑って来やがる爽やか系イケメン。


 ジュノー・ハーディング。こいつ、いつの間に俺達の背後に立っていたんだ。全然魔力を感知できなかったぞ。


「それで、魔人の呪いって?」


 ジュノーが爽やかに笑いながら聞いてくるのをヴィエルジュが即座に答える。


「『まじ、のろいってあいつら。私の足元にも及ばなかったです。あっはっはっ』という会話をしておりました」


 瞬時にそんなことを言えるウチの専属メイドまじで優秀だな、おい。口はめっちゃ悪いけど、そこはご愛嬌だね。


「あはは。確かにヴィエルジュは他のクラスメイトを圧倒していたね。経験上、こんなに凄い魔法使いが入学して来たのは初めてだよ」


「お褒めのお言葉、ありがとうございます」


 スカートを摘まみ一礼をするヴィエルジュ。なんつう自然体な動きだ。流石はヴィエルジュ。


「リオンも凄いね。あのフーラを圧倒するなんて」


 ジュノー先生は俺にも賞賛の声をかけてくれる。


「たまたまですよ」


「いやいや。本当に凄いよ。あの大剣を持てるなんて流石はレオンさんの息子だね」


 褒めてくれながらも、ジュノーは遠くの空を見ながら言って来る。


「ただ、あの大剣は学園長が大事にしていたものだからね。失くしたらちょっと問題かも」


「あ……」


 え、これってやったやつ? やばいやつ、だよね?


「あはは。ま、その内見つかるさ。アルバート王国内にはあると思うし」


 楽観的に言いながら、ジュノーはフーラをお姫様抱っこする。


「とりあえず試験はリオン班の勝利ってことで。みんなの治療もしなくちゃね。キミ達の治療は……必要ないよね?」


「はい。俺達は大丈夫です」


 だよな? とヴィエルジュに問うと、コクリと頷いた。


「おっけー。なら、今日の授業はこれで終了。現地解散ってことで、気を付けて帰るんだよ」


 はーいと返事をすると、ジュノーは倒れている生徒の治療に向かって行った。


「……」


「ご主人様、どうかなさいましたか?」


 俺がボーっとジュノーの背中を見ていたのをヴィエルジュが心配そうに尋ねてくる。


「……んにゃ。なんでも」


 あいつの魔力が感知できないのは気になるが、今日はもう疲れたしどうでも良いか。


「とりあえず試験も終わったし、さっさと帰ろうぜ」


「はい。今日はご主人様もお疲れでしょうから、寮の食堂であーんをしてあげますね♡」


「公衆の面前であーんなんてしたら他の人達に白い目で見られるだろうが」


「あら、恥ずかしがり屋さんですね。でしたら今日はこのヴィエルジュの手料理を振るってご主人様の部屋で食事としますか? そうすればあーんがし放題です♡」


「いやいや。流石にお前も魔力を使って今日は疲れているだろうから手料理は申し訳ないって。こんな日は寮の食堂で済まそうぜ」


「確かに疲れてはおりますが、ご主人様に料理を振舞うのは別腹ですよ?」


「俺はデザートか。甘い物は別腹みたいに言うなよ」


「ご主人様は甘い物じゃなくて甘い人です」


「それ、褒めてはないぞ」


 試験も終わって、ヴィエルジュといつも通りの会話をしながら帰路へと着く。


 とりあえず、班長の特権として筆記試験が免除になったのはかなり大きい。これでしばらくは平穏な学園生活が送れそうだな。


 とか、思ってたんだけど──。


『リオン・ヘイヴン。至急学園長室まで来なさい』


 無事に学園長室へ呼び出しをくらいましたとさ。

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