第16話 お転婆姫様の本気
「いたぞ!」
空からの奇襲で七人の魔法使いを倒すと、すぐさまフーラ班の違う小編成の奴等がやってくる。
そりゃ、こんだけド派手にやりゃ居場所はバレるわな。未だにマグマが噴火している状態だし。
こいつらもさっき奇襲で倒した七人編成……。いや、奥の茂みに隠れて魔力を集中させている奴がひとりいんな。上級魔法でもぶっ放そうと詠唱してやがるのがわかる。
ゴオオ! ゴオオ! と俺が噴火させたマグマ地帯の中、七人の魔法使いが遠隔からこちらに向け、一斉に魔法をぶっ放してくる。
「くらえええええええ!」
「落ちこぼれがああああああ!」
「くたばっちまえええええええ!」
四方八方からやってくる魔法。火、水、風、雷、土。多種多な下級魔法が放たれる。いくら下級魔法といえど当たれば痛いだろう。
だから──。
よっ、っと、ってい。
華麗に全ての魔法を避けてみせる。
「ば、ばかな……」
「くそ雑魚めあああああ!」
「落ちこぼれ騎士の分際でええええええ!」
次から次へと放たれる魔法を避ける、避ける、避ける。
「逃げんな! 落ちこぼれ!」
「それでも騎士か!! 騎士なら当たれ!!」
騎士なら当たれとか言う無茶振り。つうか、俺も一応、魔法学園の生徒なんだけどな。魔法使えないけど。
「だが、これで良い」
「お前が逃げている間にも俺達の作戦は進んでいるんだよ!」
作戦ってのは陰からでかい魔法をぶっ放すことだろうな。魔力を感知できない相手ならば有効だろうが、俺には効かん。
「お前らさ、喋っている暇はあんのか?」
「──え?」
ふわりと俺の目の前にヴィエルジュが舞い降りて来る。
まるで女神が空から舞い降りて来たかのような神秘的な光景に、俺と七人の魔法使いは見惚れてしまっていた。
彼女は、今から女神の加護を人間に与えるような、そんな慈悲深い雰囲気を醸し出している。
『テンペスト』
だが、現実は無慈悲である。
ブオオオオオオ!!
ヴィエルジュが呪文を唱えると大嵐が吹き荒れる。その大嵐は目の前のクラスメイト達を飲み込んでいく。
「うわあああああああ!」
「きゃあああああああ!」
「あちいいいいいいい!」
ヴィエルジュの作り出した大嵐は俺が作ったマグマも一緒に飲み込んでいたため、熱を帯びた大嵐になっていたみたい。
うわー。あれに巻き込まれたら死ぬほど痛いだろうなぁ。地獄だわ。
「ヴィエルジュ。奥でひとり、でかいのをぶちかまそうとしてる奴がいるから叩いてくるわ」
「かしこまりました。私は援軍を迎撃致します」
「よろしく」
クラスメイトは残り半数。奇襲が成功したとはいえ、まだ数では余裕で負けている。
姫様のところに行くまでに、もう少し減らさないとしんどいよな。
これからどうするか考えつつ、俺は地面を蹴って森の奥へと入って行く。
一直線に突き進むと、上級魔法を唱えようとしている奴を見つけた。一気にそいつとの間合いを取ってやる。
「あ、なんだ、噛ませ犬か」
「カマーセル・イ・ヌゥーダだ!」
詠唱が丁度終わったのか、こちらに杖を向けて上級魔法をぶっ放そうとしてくる。
「ヘイヴン家の落ちこぼれよ。今日こそこの魔法できみを葬ってあげるよ!」
「ていっ」
「へ……?」
足元がお留守だったため、軽く足払いをすると噛ませ犬が仰向けにこけちゃった。
いや、ほんと、魔法使いって運動神経悪い奴が多いよね。
俺の方に向いていた杖は、真上に向いてしまい──。
ビリビリビリビリ!!
おいおい。あんなの俺にぶっ放す気だったのかよ。
ヌゥーダ一族は魔法の家系で有名みたいだったが、こんな魔法をこの年で扱えるのは本当に凄いみたいだな。まぁ、詠唱にやたらと時間をかけていたみたいだし、実戦じゃ使いにくいだろうけどね。
「それで、いつまでも寝てるんだ?」
「……ふっ。魔力切れさ。もう立てないよ。運が良かったねヘイヴン家の落ちこぼれよ」
確かに。右目でこいつの魔力を感知してみると、魔力切れなのは間違いなさそうだ。
あんだけでかい魔法をぶっ放したんだからそうなるわな。
でも、前髪をふさぁってする元気はあるんだね、きみ。こいつは凄い一族みたいだが、戦闘IQは低そうだ。
「……!?」
ふと魔力を感じて振り向くと、ボォと火の玉がこちらに飛んで来る。
これは避けられない。
持っていた杖に魔力を込めてそれを薙ぎ払う。
「あ、熱い! 熱いじゃあないか!」
「うるせーよ。噛ませ犬」
「カマーセル・イ・ヌゥーダだ!」
薙ぎ払った時に噛ませ犬に火の粉が飛んで文句を言ってきやがる。魔力切れなのにうるせーやつ。とか思っていると、次は二本の火の槍が飛んでくる。
あ、これは避けられるわ。
でも、避けたら倒れている噛ませ犬に当たるなぁ。
つい反射的に避けちゃった。てへ☆
「ぎゃああああああ!」
二本の火の槍をモロにくらった噛ませ犬は、断末魔の叫びをあげて喋らなくなった。
耳がミュートになってすっきり爽快。安らかに眠れ噛ませ犬、アーメン。ってのは冗談で、まだちゃんと生きている。気絶したみたいだけど。
なんて、噛ませ犬を構っている暇は俺にはない。
「はああああああ!」
「うっそん!」
次は死角からピンクの長い髪を靡かせた美少女が、拳に炎を纏って突っ込んで来るんですけど。死角から来るのは食パン咥えた美少女って相場が決まってるだろうが。炎を咥えた美少女が来るとか、どんなギャルゲーだよ。
咄嗟に杖で炎の拳を受け止めると、周囲に炎が巻き起こって現場の気温が一気に上昇する。
「フーラ。班長自ら突っ込んで来るとはな」
「あっちで妹が暴れまくって、私の班はほとんど全滅よ」
「あんたの妹じゃなくて俺のメイド様な」
「あの人数をたったふたりで……。あなたは何者なの?」
「この学園の奴等にはヘイヴン家の落ちこぼれって言われてんな」
「そう。答える気はないのね。だったら妹のことも、あなたのことも力づくで聞くとするわ!」
「勝手に追加注文すんなっ!」
フーラは足の炎を纏わせてハイキックをかましてくる。
なんとか杖で受け止めるけどさ。なんちゅう威力だよ。魔法使いの威力じゃないんよ。
「魔法使いは運動神経が悪いのが鉄則だろ。なんでフーラはゴリゴリの武闘派なんだよ」
「弱点は補わなくちゃ。それに私、体を動かすのって昔から好きなんだよね」
「清純派魔法使いと見せかけたお転婆な姫様だったんだね」
「お転婆なのかもね。魔法の勉強も苦手でよく先生達を困らせてたし」
でも──。
彼女は手を俺の腸辺りに突き出してくる。
『ファイアボール』
詠唱なしで素早く呪文を唱えると、俺の腹へ火の玉が飛んでくる。
この距離で、この速さの魔法は避けられな──。
「魔法は大得意なんだ」
「うおっ!」
俺はそのままファイアボールと一緒に森の奥へと飛ばされた。勢いのあるファイアボールは俺と共に何本もの木をなぎ倒して行く。
いでっ、いでっ! いでっ!!
数本の木を犠牲に、ようやくとファイアボールが消えてくれたが、飛ばされた惰性で俺はゴロゴロと転がっていく。
「──っの、お転婆姫様め。魔法が得意とかのレベルじゃないだろ」
咄嗟に杖でガードしたから良かったけど、まともに入っていたら終わっていたぞ。
あれって火の下級魔法だろ。なんちゅー威力してんだ。
「あ、やっべ……。杖が折れた」
俺の魔力を込めた杖が折れてしまったな。姫様強すぎワロタ。
さて、どうするか。
姫様が追撃のためにこっちにバカでかい魔力を放ちながら接近中だ。
ありゃ移動しながら強い魔法を放つ準備をしてやがんな、ちくしょうめ。
ふーむ。しかし、武器がないと剣技は使えないからな。このままじゃ負けちゃうかも。
そこら辺の木の棒を武器にしても素手と変わらない強さだろうしなぁ。
どうしたものか……。
悩みながら、その場をうろうろしてしまう。考え事をしている時はジッとしているより、動いている方が名案が出るタイプ。
だけど、あまり良い案は出ないなぁと思っていたその時だった。
何気なく後ろを振り向くと──。
「ミニチュア版の神社? いや、違うな。これは祠か」
神様を祀る小規模の御殿だ。もっとも、この祠には神様じゃなくて大剣が祀られているように地面に突き刺さっている。
そういえば、ジュノーが言っていたっけ。学園長が大切にしている剣が祠に眠ってるって。
いや、祠ってダンジョンの亜種みたいな感じだと思うじゃん。それは俺がゲーム脳なだけか?
しかし、この大剣どこかで見覚えがあるような……。ヘイヴン家に似たような剣があったような、なかったような。うーむ……。
「見つけたよ! リオンくん!」
「っべ」
何重にも魔法陣を重ねたフーラが空からご登場だ。
あんにゃろ。俺の剣技が当たらないように風魔法で飛んでやがる。
「空を飛ぶなんてきたねーぞ!! 降りてこーい!」
「きみだって空から奇襲を仕掛けたじゃん!」
「反論できねぇ!」
とか、悠長に言ってる場合じゃねぇ。
あのお転婆な姫様からすげー魔力を感じる。あいつ、えげつない魔法ぶっ放す気でいやがりますよ、はい。
彼女はこちらに向けて手を突き出してくる。
『メテオストライク』
フーラが呪文を唱えると、燃え盛る隕石が空から俺に向かって落ちてくる。
おいおい、そんなんアリかよ。
「おいいいいいい! 本気で殺す気か!? 俺が死んだら約束を果たせないぞ」
「リオンくんなら大丈夫でしょ☆」
「くそったれが!! 変に過大評価しやがって!!」
これを避けるのはダメだな。これ、地面に当たったら辺り一面が火の海になる奴だわ。だからかわしても無駄だね。受け止めるのも同じだ。
避けても受けても意味がないなら壊すしかない。
「……うわー。でも、触りたくないなぁ」
武器なら祠にある学園長が大切にしている大剣がある。でも正直、触りたくない。触らぬ神に祟りなしって言うじゃん。絶対それだわ。こういうのって触ったらなんか祟られそう。
でも、触らなかったらここが火の海になることは間違いない。そっちの方がまずいよね。うん、そうだよ。
自分に言い聞かして、俺は大剣を引き抜いた。
「おっ、も……!」
この大剣、めちゃんこ重たい。なんだこの剣。こんなの脳筋のライオ兄さんでも持てないんじゃないか? 父上なら普通に持って装備しそうだけども……。
これじゃまともに動けん。あの隕石を叩き斬ることはできないぞ。
「……くっそ、重いな、あああ!」
こうなりゃやけくそだ。
この剣に俺の魔力を全力で込めて──。
「飛んでけええええええ! おりゃああああああ!」
思いっきり隕石に向かって投げてやる。
ビュウウウウウウと飛んで行く俺の魔力を帯びた大剣は隕石の核を貫いた。
ドゴオオオオオオオ!!
空中で大爆発が起こる。
「うそでしょ……!?」
大爆発の中、俺の投げた大剣は勢い良くフーラを捉えた。咄嗟に防御魔法を張るフーラだったが──。
「きゃああああああ!」
俺の大剣が防御魔法を破り、見事にフーラに命中。彼女は翼の折れた天使みたいに地上に落ちて来た。
「はぁ、はぁ。たかだか試験でえげつない魔法放って来やがって。お転婆姫様にも程があんだろ」
でも、まぁ、それくらい本気で妹のことを聞きたかったのだろうな。
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