第11話 この決闘は縛りが多い
「どうしてこうなった」
まだ入学式が終わったばかりだよね?
担任の先生の挨拶が終わってさ、自己紹介とか始まるんじゃないの?
なんで俺はこんなところにいんのよ?
疑問は止まない。
いつの間にか俺は入学試験でも使われていた訓練場に立っている。
いやいや。普通、入学式の日は午前授業でさ、終わって昼飯どうすっかなぁってなるもんじゃないの?
なんで入学初日から決闘を申し込まれた?
つうか決闘ってなんだよ!?
いや、意味はわかるよ。学園の説明でもあったからね。決闘をすることで勝てば成績アップ。負ければ成績ダウンみたいなこと言ってたけどさ、初日からする?
「きみの不正は読めている」
目の前にはザ・貴族のぼっちゃんって感じの男子生徒が俺に向かって言い放ってきやがる。
「きみは入学試験の時、あのメイドの手助けによって合格を手にした。違うかい?」
「ちげーわ、この噛ませ犬めがっ」
「カマーセル・イ・ヌゥーダだ」
ふさっと前髪をかき分けてやがりますよ。
『きゃー!! カマーセル様ぁ!!』
『そんな騎士の落ちこぼれボコボコにしてくださいましー!』
観客席から黄色い声が上がる。
人気あるのね、きみ。
てか、観客多くない? なんでそんなにお客さんいるの? 決闘ってこんな感じなの?
『魔法学園は騎士の左遷場所じゃねーぞ!!』
『身の程をしれー!!』
野次がえげつないけど、その気持ちはわかる。
前世の職場でも、サボりまくりなおっさんがウチの部署に来た時は殺意わいたよね。
ふざけんな、ウチの部署は左遷場所じゃねーぞって。
「この決闘によって、きみの不正を僕が暴くっ!」
「セリフだけは主人公だな、噛ませ犬めっ」
「カマーセル・イ・ヌゥーダだ」
噛ませ犬っていうたびに自己紹介すんの?
「あっははー。リオンも初日から災難だねぇ」
ポンポンと俺の肩に手を置いて馴れ馴れしく絡んでくるそいつの名はカンセル・カーライル。
一次試験の試験官を担当していたその男は、今では俺の担任の先生になっている。
担任の挨拶の時、こいつだけチャラかったなぁ。
「同情すんなら今すぐこの決闘を止めてくださいよ。そうだ、やめましょう。こんな無意味な争い」
「わりぃなー。それはできねぇんだわー」
「なんでっ!?」
「見てみ」
彼が親指で差した場所は観客席の特等席。王様が座っていそうな玉座に、入学式でも挨拶してくれて美魔女が偉そうに座っていた。
「なんで学園長がドヤ顔でいんの!?」
「いやー、リオンの入学に反対の声が多かったんだよねー。事実、魔法を使わずに合格だったじゃん? だから、きみを疑う声も多いわけよー。『魔法使ってねぇじゃん!』ってね」
「そりゃ先生がゴーレムちゃん倒したら合格にしてくれるって言ったからでしょ!?」
「そうそう。あれはまじで痺れたねー。俺のゴーレムちゃん、あれでまじメス化してたから」
ゴーレムちゃんメス化ってどういう意味だよ。
いや、このセリフに意味はないんだろうなー。こいつ、チャラいし。その場のノリで言ってるだけだろうな。
「俺は約束を果たす主義だかんね。言った以上はリオンを猛プッシュよ」
相撲の力士みたく、どすこいどすこいとしている。チャラ男と相撲は合わないね。
「俺はさ、リオンのこと認めてんだぜ。仮にも俺は二番隊の隊長だしよ。そんな俺のゴーレムちゃんを即席の剣で倒したのは、紛れもない実力の持ち主だってね。『なんでい、落ちこぼれじゃねーやん。騎士の才能ありありじゃーん』ってね。だから、俺はお前の担任を申し出たってわけよ」
ウィンクひとつかましてくれる。
「でも、それはそれとして」
置いといて、なんてジャスチャーをかましてきやがる。
「『ここは魔法学園だから騎士の才能見せられても』って上から言われちゃった☆」
「ぐぅ正論」
「カマーセルが入学初日に決闘を申し込んだから、こりゃ良い機会ってわけで学園長から直にきみを見たいって言われたんだわ。この決闘で勝てば誰も文句ないんじゃね? 相手はヌゥーダ一族なんだしさ」
ヌゥーダ一族は魔法の家系では結構有名なのかな。観客の沸き方を見る限りでは有名なんだろうけど。
「ま、入試の最終試験のノリでがんば☆」
「その言い方。負けたらどうなるん?」
なんだか凄く嫌な予感がすんな。
「そりゃまぁ学園長に呼び出しはされるよね」
「退学手続きのために?」
「あっはっは!」
このチャラ男、笑って誤魔化してくるタイプだわ。
「んじゃ、ま、決闘の審判任されてんで、そろそろ行くわ。正々堂々とな」
ひらひらーと手を振って俺と噛ませ犬の間に立つ。
「これより決闘を開始する。攻撃魔法のみ可。その他の攻撃手段は反則により退学とする」
「ん? 先生? 俺、魔法使えないの知ってる?」
「そりゃほとんどの奴は知ってんじゃん? リオンは騎士の家系だし」
「魔法以外使うと?」
「退学ー」
「横暴だああああああ!」
「カマーセルを倒してきみの強さを証明してちょ。ほなら学園長も納得かもなー。ほい、開始ー」
こちらの嘆きなど無視して始まった噛ませ犬との決闘。
くそがっ! 攻撃魔法のみ可ってなんだよ! 騎士へのいじめにも程があんだろ。正々堂々って意味を辞書で調べてこい、こんちくしょー!!
ま! 魔法学園だから仕方ないんですけどねっ! くそったれ!!
ぶーぶー言っていても仕方ない。向こうは既に杖を構えている。
こっちも杖を構えるが、まじに形だけだわ。だって魔法使えないんだもん。
『サンダーボルト!』
はい。向こうは容赦なくサンダーボルトとか撃ってきやがります。
俺の右目の魔力感知で、攻撃を予測してかわすのは簡単だ。
「……っと」
俺の真横をサンダーボルトがバチバチと通り抜けていく。当たったら普通に痛いだろうなぁ。
「……たまたまだろ。『サンダーボルト』」
続け様にサンダーボルトを撃ってきやがるのでそれもかわす。
「ちょこまかと。『サンダーボルト!』」
何度撃とうがこんなものは簡単にかわせる。
「くそっ!」
噛ませ犬は舌打ちをすると、集中し始めてぶつぶつとなにかを呟いている。
「……詠唱?」
魔法の詠唱だ。
詠唱を始めたってことは強い魔法が飛んでくるんだろう。魔法を勉強していない俺でもそれくらいはなんとなくわかる。
隙だらけだから今攻撃したら勝ち確定なんだけど、そうしたら退学確定なんよな。もどかしすぎる。
『サンダーボルトおお!!』
「サンダーボルト?」
詠唱をした割に、撃ってくるのは同じ魔法。
なんだ? さっきよりも強いサンダーボルトか?
しかし、いくら強いサンダーボルトを撃とうが俺には当たらん。
「……よっと」
「かかったね、阿呆が!」
噛ませ犬の嬉しそうな声をと共に、避けたサンダーボルトがV字に折り曲がり戻ってくる。
「うおっ!」
あっぶね。ギリッギリでかわせたわ。目の前を電気が走っていったよね。あのサンダーボルト、当たったら黒焦げになるやつ。
「まだまだあ!」
サンダーボルトがまた折り曲がり、こちらを目掛けて飛んでくる。
追尾型のサンダーボルトね。あいつ、そんな魔法撃ってくるんだ。ねちっこい魔法だな。
『サンダーボルト!』
追尾のサンダーボルトを避けていると、新たに詠唱なしのサンダーボルトを撃ってくる。
こりゃあかん。避けられんわ。
「よいしょー!」
持っていた杖に魔力を流し込み、杖でサンダーボルトを斬る。そこから追尾の方を避けた。
魔法を斬るのは良いよね?
チラッとカンセル先生を見ると察してくれたのか、「おけまるすいさん」とかチャラく言ってくる。
「なっ……!? くそっ!」
「ほいっ、ほいっ、ほいっと!」
相手はムキになってサンダーボルトを連発してくる。
避けつつ、避けられないものは杖で斬ってかわしていく。
「がああ! くそおお!」
あー、わかるわー。こんだけ撃って当たらないのってストレスよなぁ。噛ませ犬も顔真っ赤だし。
……ふむ。待てよ。このまま噛ませ犬に魔法を使わせて魔力切れを狙うか。
攻撃はできない。負けたら学園長呼び出し(多分退学)
それなら勝手に息切れしてもらって、最悪ドローに持ち越せるってもんだ。
俺ってあったまいいっ♪
「あ、言い忘れてたけど、ドローとかいう概念はなしな。学園長見てんだ、そんな甘えはねぇ」
「あんた俺を猛プッシュしてんだろ!? 魔法使えないのわかっててそんなこと言ってんの!?」
「うん」
「どちくしょうがっ!!」
くっそ。この学園、俺を退学させる気満々だな。騎士になんか恨みでもあんのかよ。
「ヴィエルジュ……!」
こうなったら不正でもなんでも、ウチのチートメイドに頼るしかねぇ!
学園長の入学式の言葉? そんなもん関係ねぇ。あいつなら観客席から上手くやってくれるだろ。
観客席からヴィエルジュの魔力を感知する。わかりやすく大きな魔力が……ふたつ?
あー、双子の姉さんと隣り合わせか。双子だから魔力がそっくりねぇ。とか、近所のおばちゃんが双子を見て呟くセリフを吐いてる場合じゃない。
「ヴィエル……」
あかーん!
あいつ、隣の姉さんがグイグイ絡んできていて気まずい雰囲気爆発させやがる。こっちのヘルプに気が付いてねぇ!
思春期男子が好きな女の子に鬼絡みされてたじたじになってるやーつー。
いや、お前はそっち側じゃねぇだろ! 普段、クールに俺をからかってくるタイプやろがい!
だめだ。チートメイドは頼れない。
『サンダーボルトサンダーボルトサンダーボルトおおおおおお!』
噛ませ犬はバカのひとつ覚えみたいにサンダーボルトを連発してきている。
ほいほい、よっと。かわしてかわして、斬る。
「……ああ! くそっ!」
イライラして周りが見えていないみたいだな。こんだけかわしてたらイライラもするか。
ほいっと。追尾のサンダーボルトもノールックでかわす。
ふむ……。
「……思いついちゃった☆」
やはり戦闘は熱くなったら負けだね。冷静な判断こそが勝利への道標となる。
魔法が使えない俺が勝つ方法を思いついたので、真っ直ぐに噛ませ犬に近づく。
「ふはは! 普通の戦いなら魔法使いの僕と間合いを取ればこちらが不利だが、きみは攻撃できない。全く無意味な間合いだ。それよりも的が来てくれて当てやすいぞ!」
「──ほいっと」
あーだ、こーだうっさい噛ませ犬を無視して噛ませ犬の頭に手を乗せると、くるりと一回転。彼の背後に回る。
「背後を取ったところで無意味! ゼロ距離のサンダーボルトをくらえ!!」
「おつかれサン」
「ダーああああああ!!!!!!」
ビリビリビリビリビリビリ!!!!!!
俺を追尾していたサンダーボルトが噛ませ犬に直撃して、黒焦げになっちゃった。
ふむ。『おつかれサンダー』ね。悪くないネーミングだ。
「先生。これ、俺の勝ちだよね?」
「あっはっはっ! だな!」
魔法を使わずに勝った俺へ先生がケタケタの笑っあと
「勝者! リオン・ヘイヴン!!」
俺の勝利が訓練場に響き渡った。
BOOOOOO! BOOOOOO!!
俺の名前が呼ばれると観客席はブーイングに包まれる。
ま、勝ち方は微妙だったからそれは良いんだけどさ。
学園長先生? なんでそんなに苦虫を噛み潰したような顔をしてんの? 俺のこと嫌いなん?
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