第15話 おつかれさんだー

「これより決闘を開始する。攻撃魔法のみ可。その他の攻撃手段は反則により退学とする」


「ん? 先生? 俺、魔法使えないの知ってる?」


「そりゃほとんどの奴は知ってんじゃん? リオンは騎士の家系だし」


「魔法以外使うと?」


「退学ー」


「横暴だああああああ!」


「カマーセルを倒してきみの強さを証明してちょ。ほなら学園長も納得かもなー。ほい、開始ー」


 こちらの嘆きなど無視して始まった噛ませ犬との決闘。


 くそがっ! 攻撃魔法のみ可ってなんだよ! 騎士へのいじめにも程があんだろ。正々堂々って意味を辞書で調べてこい、こんちくしょー!!


 ま! 魔法学園だから仕方ないんですけどねっ! くそったれ!!


 ぶーぶー言っていても仕方ない。向こうは既に杖を構えている。


 こっちも杖を構えるが、まじに形だけだわ。だって魔法使えないんだもん。


『サンダーボルト!』


 はい。向こうは容赦なくサンダーボルトとか撃ってきやがります。

こんな魔法、ライオ兄さんの攻撃よりもかわすのは簡単だ。


「……っと」


 俺の真横をサンダーボルトがバチバチと通り抜けていく。当たったら普通に痛いだろうなぁ。


「たまたまだろ。『サンダーボルト』」


 続け様にサンダーボルトを撃ってきやがる。


 それも、ひょいっとかわす。


「ちょこまかと。『サンダーボルト!』」


 何度撃とうがこんなものは簡単にかわせる。


「くそっ!」


 噛ませ犬は舌打ちをすると、集中し始めてぶつぶつとなにかを呟いている。


「……詠唱?」


 魔法の詠唱だ。


 詠唱を始めたってことは強い魔法が飛んでくるんだろう。魔法を使えない俺でも、それくらいはなんとなくわかる。


 隙だらけのかませ犬。今、攻撃したら勝ち確定なんだけど、魔法以外で攻撃したら退学確定なんよな。もどかしすぎる。


『サンダーボルトおお!!』


「サンダーボルト?」


 詠唱をした割に、撃ってくるのは同じ魔法。


 なんだ? さっきよりも強いサンダーボルトか?


 しかし、いくら強いサンダーボルトを撃とうが俺には当たらん。


「……よっと」


「かかったね、阿呆が!」


 噛ませ犬の嬉しそうな声と共に、よけたサンダーボルトが空中でV字に折り曲がり戻ってくる。


「うおっ!」


 あっぶね。ギリッギリでかわせたわ。あのサンダーボルト、当たったら黒焦げになるやつ。


「まだまだあ!」


 サンダーボルトがまた空中で折り曲がり、こちらを目掛けて飛んでくる。


 追尾型のサンダーボルトね。あいつ、そんな魔法撃ってくるんだ。ねちっこい魔法だな。


『サンダーボルト!』


「おいおい。誰もおかわりなんて頼んでねぇぞ」


 追尾のサンダーボルトを避けている最中、新たに詠唱なしのサンダーボルトを撃ってくる。


 こりゃあかん。よけられんわ。


「らぁ!」


 持っていた杖に俺の魔力を流し込み、杖でサンダーボルトを叩き斬る。


「よいしょー」


 そこから追尾の方を避けた。


 魔法を斬るのは良いよね?


 チラッとカンセル先生を見ると察してくれたのか、「おけまるすいさん」とかチャラく言ってくる。異世界でもそういうのあるんだ。古いけどな。


「なっ……!? くそっ! くそっ!! くそっ!!!」


 相手はムキになってサンダーボルトを連発してくる。


「ほいっ、ほいっ、ほいっと!」


 よけつつ、よけられないものは杖で斬ってかわしていく。


「がああ! くそおお!」


 あー、わかるわー。こんだけ撃って当たらないのってストレスよなぁ。噛ませ犬も顔真っ赤だし。


 ……ふむ。待てよ。このまま噛ませ犬に魔法を使わせて魔力切れを狙うか。


 攻撃はできない。負けたら学園長呼び出し(多分退学)


 それなら勝手に息切れしてもらって、最悪ドローに持ち越せるってもんだ。


 俺ってあったまいいっ♪


「あ、言い忘れてたけど、ドローとかいう概念はなしな。学園長見てんだ、そんな甘えはねぇぞー」


「あんた俺を猛プッシュしてんだろ!? 魔法使えないのわかっててそんなこと言ってんの!?」


「うん」


「どちくしょうがっ!!」


 くっそ。この学園、俺を退学させる気満々だな。騎士になんか恨みでもあんのかよ。


「ヴィエルジュ……!」


 こうなったら不正でもなんでも、ウチのチートメイドに頼るしかねぇ! 


 学園長の入学式の言葉? そんなもん関係ねぇ。あいつなら観客席から上手くやってくれるだろ。


 んん? あの子ったら双子の姉さんと隣合わせに座ってない?


「ヴィエル……」


 あかーん! 


 あいつ、隣の姉さんがグイグイ絡んできていて気まずい雰囲気を爆発させやがる。こっちのヘルプに気が付いてねぇ!


 思春期男子が好きな女の子に鬼絡みされて、たじたじになってるやーつー。


 いや、お前はそっち側じゃねぇだろ! 普段、クールに俺をからかってくるタイプやろがい!


 だめだ。チートメイドは頼れない。


『サンダーボルトサンダーボルトサンダーボルトおおおおおお!』


 噛ませ犬はバカのひとつ覚えみたいにサンダーボルトを連発してきている。


 ほいほい、よっと。かわしてかわして、斬る。


「……ああ! くそっ!」


 イライラして周りが見えていないみたいだな。こんだけかわしてたらイライラもするか。


 ほいっと。追尾のサンダーボルトもノールックでかわすくらいに動きが読める。とことん俺を追いかけて来やがるな。


 とことん追いかけて来る、か……。


 ふむ。


「思いついちゃった☆」


 やはり戦闘は熱くなったら負けだね。冷静な判断こそが勝利への道標となる。


 魔法が使えない俺が勝つ方法を思いついたので、真っ直ぐに噛ませ犬に近づく。


「ふはは! 普通の戦いなら魔法使いの僕と間合いを取ればこちらが不利だが、きみは攻撃できない。全く無意味な間合いだ。それよりも的が来てくれて当てやすいぞ!」


「──ほいっと」


 あーだ、こーだうっさい噛ませ犬を無視して噛ませ犬の頭に手を乗せると、くるりと一回転。彼の背後に回る。


「背後を取ったところで無意味! ゼロ距離のサンダーボルトをくらえ!!」


「おつかれさん」


「だーああああああ!!!!!!」


 ビリビリビリビリビリビリ──!!!!!!

 

俺を追尾していたサンダーボルトが噛ませ犬に直撃して、黒焦げになっちゃった。

 

 ふむ。『おつかれサンダー』ね。悪くないネーミングだ。


「先生。これ、俺の勝ちだよね?」


「あっはっはっ! だな!」


 魔法を使わずに勝った俺へ先生がケタケタの笑っあと


「勝者! リオン・ヘイヴン!!」


 俺の勝利が訓練場に響き渡った。


 BOOOOOO! BOOOOOO!!


 俺の名前が呼ばれると観客席はブーイングに包まれる。


 ま、勝ち方は微妙だったからそれは良いんだけどさ。


 学園長先生?


 父上を彷彿とさせるその微妙な顔をやめてくれません?

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