第14話 入学初日の決闘

「どうしてこうなった」


 まだ入学式が終わったばかりだよね?


 担任の先生の挨拶が終わってさ、自己紹介とか始まるんじゃないの?


 なんで俺はこんなところにいんのよ?


 疑問は止まない。


 いつの間にか俺は入学試験でも使われていた訓練場に立っている。


 いやいや。普通、入学式の日は午前授業で終わって、昼飯どうすっかなぁ、ってなるもんじゃないの?


 なんで入学初日から決闘を申し込まれた?


 つうか決闘ってなんだよ!?


 いや、決闘自体の意味はわかるよ。学園の説明でもあったからね。決闘をすることで勝てば成績アップ。負ければ成績ダウンみたいなこと言ってたけどさ、初日からするとかどうなってんだよ。


「きみの不正は読めている」


 目の前には、ザ・貴族のぼっちゃんって感じの男子生徒が俺に向かって言い放ってきやがる。


「きみは入学試験の時、あのメイドの手助けによって合格を手にした。違うかい?」


「ちげーわ、この噛ませ犬めがっ」


「カマーセル・イ・ヌゥーダだ」


 ふさっと前髪をかき分けてやがりますよ。


『きゃー!! カマーセル様ぁ!!』


『そんな騎士の落ちこぼれボコボコにしてくださいましー!』


 観客席から黄色い声が上がる。


 人気あるのね、きみ。


 てか、観客多くない? なんでそんなにお客さんいるの? 決闘ってこんな感じなの?


『魔法学園は騎士の左遷場所じゃねーぞ!!』


 えげつない野次が飛んで来たけども、その気持ちはわかる。


 前世の職場でも、サボりまくりなおっさんがウチの部署に来た時は殺意わいたよね。


 ふざけんな、ウチの部署は左遷場所じゃねーぞって。


「この決闘によって、きみの不正を僕が暴くっ!」


「セリフだけは主人公だな、噛ませ犬」


「カマーセル・イ・ヌゥーダだ」


「噛ませ犬っていうたびに自己紹介すんの?」


「あっははー。リオンも初日から災難だねぇ」


 ポンポンと俺の肩に手を置き、馴れ馴れしく絡んでくるそいつの名はカンセル・カーライル。


 一次試験の試験官を担当していたその男は、今では俺の担任の先生になっている。


 担任の挨拶の時、こいつだけチャラかったなぁ。


「同情すんなら今すぐこの決闘を止めてくださいよ。そうだ、やめましょう。こんな無意味な争い」


「わりぃなー。それはできねぇんだわー」


「なんでっ!?」


「見てみ」


 彼が親指で差した場所は観客席の特等席。王様が座っていそうな玉座に、入学式でも挨拶してくれて美魔女が偉そうに座っていた。


「なんで学園長がいんの?」


 しかも、なんかドヤ顔だし。


「いやー、リオンの入学に反対の声が多かったんだよね。事実、魔法を使わずに合格だったじゃん? だから、きみを疑う声も多いわけよー。『魔法使ってねぇじゃん』ってね」


「そりゃ先生がゴーレムちゃんを倒したら合格にしてくれるって言ったからでしょ!?」


「そうそう。あれはまじで痺れたねー。俺のゴーレムちゃん、あれでまじメス化してたから」


「ゴーレムちゃんメス化ってどういう意味ですか?」


「そういう意味」


「なるほど。特に意味はないと」


 チャラい人ってほんとノリで会話するよね。


「俺は約束を果たす主義だかんね。言った以上はリオンを猛プッシュよ」


「ほんとかよ」


「俺はさ、リオンのこと認めてんだぜ。仮にも俺は二番隊の隊長だしよ。そんな俺のゴーレムちゃんを即席の剣で倒したのは紛れもない実力の持ち主だってね。『なんでい、落ちこぼれじゃねーやん。騎士の才能ありありじゃーん』ってね。だから、俺はお前の担任を申し出たってわけよ」


 ウィンクひとつかましてくれる。


「でも、それはそれとして」


 置いといて、なんてジャスチャーをかましてきやがる。


「『ここは魔法学園だから騎士の才能見せられても……』って上から言われちゃった☆」


「ぐぅ正論」


「カマーセルが入学初日に決闘を申し込んだから、こりゃ良い機会ってわけで学園長から直にきみを見たいって言われたんだわ。この決闘で勝てば誰も文句ないんじゃね? 相手はヌゥーダ一族なんだしさ」


「あのかませ犬はそんなに有名な一族なんですか?」


「魔法の家系で知らぬ者はいないってくらい由緒正しい家系だ」


「なるほど。だからこんなにも人気なんですねー」


 完全なるアウェイでの決闘だもんな。


「ま、入試の最終試験のノリでがんば☆」


「その言い方。負けたらどうなるん?」


 なんだか凄く嫌な予感がすんな。


「そりゃまぁ学園長に呼び出しはされるよね」


「退学手続きのために?」


「あっはっは!」


 あ、このチャラ男、笑って誤魔化してくるタイプだわ。

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