第4話 魔物の集い

 「それで、さっきみんなが向こう側に行ってたのって?」


 春乃は、先程魔物たちが歩いて行った方向に指差し、尋ねた。


 「あー、あれはねー、魔王様の朝礼。毎月一度、魔王様の部屋に集まって、魔物全員でミーテイングをするんだよね。ほら、一応こんなにいい環境だけど、いつ勇者パーティーが襲ってくるかわからないじゃない?」


 「いい環境だって?魔王城なのに?」


 春乃はローニャの言葉に疑問に思った。

 

 魔王城と言えば、過酷で、魔王が威張って部下をこき使うイメージがあったが、違うのだろうか?


 これが、神様の言っていた「待遇の良い魔王城」なのだろうか。


 「なーに、最高の環境だよここ。あ、お姉さん、新入り?」


 春乃はぷるぷると首を縦に振った。


 「やっぱりねえ。そーだと思ったよ。まず、この狭い部屋から出てくるなんて変だと思ったんだよね。わざわざ何もない部屋で隠れているなんて。まあ、いいわ。私がこの城の構造とシステムを簡単に教えてあげる、、、とその前に、先に朝礼に行かないとね。ついてきて!案内してあげるから」


 そして、ローニャは、春乃の手を引いて、ドアを開けると直ぐに外に飛び出した。


 外は、廊下の両側共に赤いカーペットが果てまで続いていて、赤紫色の壁に、3メートル間隔で、ドアが取り付けられていた。


 「この他の部屋って?」

 

 向かい側のドアを指さして、春乃が尋ねた。


 「あー、これはね、物置かな。基本的にはほとんど使われないものが山積みになってるだけだよ。てか、そんなことより急がなくっちゃ」


 すると、ローニャは、走って先程みんなが歩いていた方向に向かって走り出した。


 ただ走っただけとはいえ、ドラゴンの血を引いているため、とてつもないスピードだった。

 

 「やばい、うで、腕もぎれちゃう、ローニャ!止まって止まって!!!」


 「そんなこと言ってる場合じゃないのよ。まだまだ遠いんだから。急ぐよー!」


 「ひえー...」


 それから、少し走った後、長い廊下の先にある、大きな劇場にありそうな入り口のような大きな扉の前に来た。


 「よーし!ここよ!もうそろそろ始まるから、早く中に入って」


 「おええええええ」


 春乃に遊園地の高速アトラクションに振り回されたのかのように酔いと疲れが襲ってきた。


 「手を引かれてただけのはずなのにな...」


 こうして、部屋の中に入ると、既に多くの魔物たちが立っていて、ステージの方を見ていた。


 部屋の中は、広いホールのような感じで、椅子などは無く、後ろに行くほど高くなっていく映画館のような仕様になっていた。


 さらに、ガラス張りの天井に、電灯が付き、日光と共に部屋の中を照らしていた。


 そして、ステージを見ると、真ん中に黒い服を着た長身の者と、その左側には、ハープを手に抱え、清らかな所作で魔物たちを見下ろしている水色髪の人魚のお姉さん、そのさらに左側には、丸眼鏡をかけ、小さく厚い書籍を膝の上に置いた女の子が座っていた。


 さらに、真ん中の男の右側には、オオカミの顔にゴツイ男の人体をもち、背中にハンマーを抱えている者の4人が座っていた。

 

 いかに、四皇という風格をまとっていた。


 ステージの方を見とれていると、ローニャが両手に肩を乗せてきた。

 

 「よーし、そろそろ始まるよう~」


 すると、ホールの電灯が消え、部屋に入っていた日光も、ガラスが暗くなっていくのと同時に遮断されていった。


 「どんな技術を使っているのだろうか」と思う合間に、ステージ上だけが光輝き、魔物たちは、その上にいた黒服を着た男に注目していた。

 

 すると、大きなマントをなびかせて男は口を開いた。


 「諸君、おはよう!今日も何事もなく過ごせそうだ。魔物の君たちにはぜひ、学問に励んでほしいと思っている。ここでしっかりと学んでおくことによって、自分を育ててくれた親御さんたちに感謝の意を伝えるのだ。この魔王城でいい職に就職出来れば、何もかもが安泰なのは間違いないのだからな。ははは!あと、勇者の状況だが、未だ「幻の森」を彷徨っているようだ。馬鹿なやつらめ。そんなことではいつまで経ってもこの城には到達できない。ということで、今月も勇者が攻めてくることは無さそうだから安心して生活するといい。あ、言い忘れていたが、勇者が攻めてきたら、総動員で戦ってもらうからな。これに至っては、逃げは許さない。なあに、君たちだけを酷使しようというものじゃない。しっかり私も自ら戦線に立とうと思っている。勇者を倒さなければ世界征服なんて夢のまた夢なのだからな。では、これにて朝礼は終わりだ!解散!」


 男は、またマントをはらりとなびかせて、席に座った。


 話す様子を見るに、この男が「魔王」なのだろう。


 魔王の話が終わった途端、魔物一同「失礼しました!」と言って流れるように退出していった。


 春乃とローニャは、出口に近かったため、魔物の流れに従ってすぐにホールを出ることができた。


 「ねえ、これからどうするの?」


 春乃は、廊下を歩きながら尋ねた。


 「まあ、今日は授業はお休みだから、自由に城内を巡ってみよっか。せっかくだし案内してあげる」


 春乃は、転生そうそうかなりいい仲間に出会ったなあと思ったまま、手を引かれて城内探索をすることになった。


 

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