第55話

「うぅぅ……刺さないで……」

 そこには恐怖で体を震わせる少年の姿が。10歳くらいだろうか?


「だ、大丈夫!? ごめんね……ケガは無い!?」

 慌てて少年を抱き抱えるミルリーフ。


「う、うん……目の前に剣が振り下ろされてだけ……」

 体をガタガタを震わせる少年。


「ごめんなさい……ヘビかと思って……当たらなくて良かったわ。あら? あなた、耳が……!?」

 ミルリーフは少年の頭からピョンと生える耳に気づいた。

 おびえる少年をよく見ると人間ではなかった。毛に覆われた体、犬のような大きな耳、獣人族だ。


「うん……僕は獣人だよ」

「ほー、獣人族か。これくらいの山ならいるだろうな」アルカンタラが言う。


「獣人族……アムハイナでもたまに見かけるわね」


 獣人族は魔族やエルフやドワーフなどに比べると、今でも人間との交流が多い種族だ。人の街にも溶け込んで仕事をし、生活している獣人もいる。


「……お姉ちゃんたち、冒険者なの?」

 少年はミルリーフの腰に下げた剣を見て尋ねる。


「ん? そうよ?」

「……強いの?」少年がボソっと尋ねる。


「うーん、まあまあ、かしら……あっ、アッチのお兄さんはなかなかよ?」

「なかなか、ねぇ?」アルカンタラが不機嫌に言う。


「そっか……あのさ……ぼ、僕の村を助けてくれないかな……?」

 少年は目に涙を溜めて言う。


「……君の村? なにかあったの?」

「……うん」


 少年は話を続けた。


 数日前、少年の住む村に見たこともない巨大なヘビが現れた。

 そのヘビはあっという間に少年の住む街をメチャクチャにした。

 村人は慌てて避難をしたため、幸いケガ人はいなかった。

 しかし、今もヘビが村に住み着いているため、獣人たちは自分たちの村に戻ることができないということだ。


「なるほど……大変だったわね。よし! アルカンタラ、この子の村に行きましょう!」


「んー……めんどくせぇな。早くエルフの森に行かなきゃならねぇってのに。まあ仕方ねぇか、サッサとそのヘビぶっ飛ばすぞ」

 アルカンタラはぶっきらぼうに言う。


「……お兄ちゃんたち、エルフの森に行くの?」

 少年はアルカンタラを見上げ言う。


「ああ、だから急いでんだけどな。ガキの頼みを無視すんもの後味悪いし、今回だけは助けてやるよ」


「ふふ……なんだかんだ優しいのね」

 ミルリーフは小声でつぶやき笑う。


「僕……エルフの森なら案内できるよ? でもだいぶ遠いいけどなぁ……?」

「本当に!? それは助かるわ! アルカンタラ、早くこの子の村のヘビを倒して案内してもらいましょ!」


「……ふん! そ、そんなガキの案内なんてなくても……目印の石で楽勝だけどな……どうしてもって言うなら案内させてやるか……」


「アンタね……その石に期待しすぎでしょ……」

 呆れるミルリーフだった。

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