第三章 エルフの森

第54話

 ボアモルチの西の山

 アルカンタラとミルリーフはエルフの森に向け、山越えをしていた。


「ふぅ、すごい森ね……もはやジャングルだわ」

「はぁはぁはぁ……ああ、相変わらずキツい山だ……」肩で息をするアルカンタラ。


 二人は木々がうっそうと生い茂る、あたり一面、緑に覆われた山中を西へと進む。


 ミルリーフは初めての、アルカンタラにとっては100年ぶり2度目のエルフの森に行くためには避けて通れない山だ。



『ガザガサ……』

「はぁ、また来たか……」


 二人をめがけ、茂みからヘビが飛び出す。人な腕ほどの太さのある立派なヘビだ。もうこの山に来て何度目かの光景だ。

 アルカンタラはそのヘビを指差し、細いビームのようにヘビを撃ち抜く。


「いいわね、小さい衝撃波も出せるのね」ミルリーフが言う。

「ああ、ヘビが出るたびに森を吹き飛ばしてたら、山の形が変わっちまうよ」


 モンスターに慣れた2人にとって、多少大きいとはいえ、普通のヘビは飛びまわるハエと何ら変わらなかった。


「まてよ? おいミルリーフ! 今度からヘビはお前がおっぱらえ」

「ええ? いいけど……どうして?」

 ニヤリと笑うアルカンタラにミルリーフは首をかしげる。


「ただし、魔法は禁止だ。使っているのは剣だけだ」

 ミルリーフの腰に下げた剣を指さす。


「剣だけ……? なるほど、剣の修行ってわけね! 望むところよ」


 ミルリーフはポピーの父親から譲り受けた剣を抜く。

 幼い頃、勇者の家系のミルリーフは剣の稽古を受けていた。しかし、実戦で使うとなるとまだ心配な技術だ。


「さあ、どっからでもかかってきなさい!」


『ガザガサ……』

「ん! 来たわねぇ! そりゃ!」

 襲いかかるヘビを輪切りにする。


「お、いいぞ! その調子だ。フフ、これで歩くのがラクになったぜ……」

「……なんか私、利用されてるだけのような気が……」


 ミルリーフが先導し、山を歩く二人。


「懐かしいな、ソーサーやアゼリともこの道を歩いたんだな……」

 100年前、仲間たちと歩いたこの道を、今は子孫のミルリーフと歩いてる不思議さを感じるアルカンタラだった。


「それで……エルフの森はあとどれぐらいで着くのよ? アルカンタラは昔行ったことあるんでしょ?」

 ミルリーフはヘビを斬りながらアルカンタラに視線をやる。


「ああ、もう少しじゃねぇかな? スゲェ分かりづらい道でな、前に通った時は迷いに迷ったから、次に来る時のために目印を残しておいたんだ」


「へぇー、目印ね。それは分かりやすくていいわね。どんな目印なの?」


「ふふふ、それがな、びっくりするくらい綺麗な石を拾ってな、それを目印に置いたんだよ。一目見れば分かると思うんだけどなぁ? おかしいな?」

 アルカンタラは足元をチラチラと眺める。


「い、石……?」

 ミルリーフは顔をしかめる。


「ああ、綺麗な石だぞ! たしかアゼリがその辺の道端で見つけてな、それをソーサーがエルフの森の入り口に置いておこうって! 『ガハハ、そうすれば次くる時も分かるだろ?』ってな。賢いんだぜ! ソーサーは」

 アルカンタラは得意げな笑みを浮かべる。


「……ち、ちなみにソレはどれくらいの大きさの石なの……?」

 ミルリーフの脳裏に嫌な予感がよぎる。


「んー、こんくらいだな? 手のひらに乗るくらいの――」

「アンタねぇ! バッカじゃないの!? 100年前よ!? そんな石ころが今も残ってるわけないでしょうがッ!」

 アルカンタラの話の途中でミルリーフは怒鳴りつける。


「そ、そんな……俺たちの思い出の石なのに……」


「もう! なによ、アルカンタラもおじいちゃん達もみんなバカなんじゃないの……? アンタたち、そんなパーティーでよく魔王を倒せたわね……」

 ミルリーフは頭を抱える。『道は分かるから安心しろよ!』と強気だったアルカンタラを信じた自分が馬鹿だった……と。


『ガザガサ』


「ミ、ミルリーフ……ヘビが来た――来ましたよー……?」気まずそうにボソボソとアルカンタラが言う。

「もう! うっさいわね!」

 ミルリーフがイラつきながら茂みに向かって剣を振り回す。


「ぎゃあぁああ! やめてぇえ!」

 その時、剣を刺した茂みから声が響く。


「え!? な、なによ? ヘビが喋ったの!?」

 突然の叫び声にミルリーフは目を丸くする。

「いや、そんな訳ねぇだろ……!?」


 謎の声に、二人は恐る恐る茂みを覗き込む。

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