第16話:二次会

 一次会は大盛り上がりで終了して、その多くが二次会のカラオケに移動した。ちなみに、先生は帰った。『生徒たちだけで楽しみなさい』ということだろう。


「「「かんぱーい!」」」


 大きめな部屋が準備されていたので事前に予約してあったのだろう。会社の人と飲み会に行ってもいいとこ5~6人用の部屋にしか行ったことがなかった。


 ここは20人は入れそうな会場だったが、俺たちも20人くらいだったのでどんどん席を変わる感じじゃなかった。


 俺の座った席の隣に姫乃澤うるるが座った。たまたまと言うか、ラッキーと言うか。まあ、ここまで話しながら歩いてきたので割と自然な流れで横に座った感じ。


「じゃあ、トップバッターは出席番号順で……」


 カラオケを歌う順番を幹事の坂本が指名するらしい。俺の出席番号たしか8番だった。すごいな坂本。昔の出席番号を覚えているなんて。


「ブラックツリー、黒木!」

「はぁ!?」

「頼むよ!ステージに一番近いし!」


 確かに、ステージに近かった。


「わぁ、黒木くん、頑張って!」


 姫乃澤うるるが応援してきた。彼女に言われたら歌わないわけにはいかない。歌は苦手だけど、会社では大体若手がトップバッターで歌うから1曲は歌える。


 とりあえずは2~3曲だけは練習した。俺が選んだのは「浪漫飛行」「君がいるだけで」「イージューライダー」だ。


 その理由として、40代以上でも知っていること。会社のカラオケの場で若者だけ分かる曲は盛り上がらない。最新ヒット曲ではなく、昔からの定番曲が好ましい。


 その中で、あまり高低がなく歌いやすいことが条件として挙がる。そのレパートリーの中から俺は十八番のを1曲歌って席についた。


「お疲れさまー」


 パチパチパチと横で姫乃澤うるるが拍手してくれた。


「ども」


 一曲目が歌われたことでみんな曲を入れ始めた。高校時代の曲を歌い始めるヤツ、最新曲を歌い始めるヤツ、自慢の曲を歌い始めるヤツ、色々といた。カラオケが盛り上がり始めると、俺が曲を入れる番がなくなった。


 その方がありがたいので飲み物を飲みながら少しリラックスしていた。


「ねえ、黒木くん。高校時代付き合ってる人いた?」


 ふいに横にいる姫乃澤うるるが話しかけてきた。美人が横にいるだけでも緊張するのに、会話とか……。


 俺の『妄想彼女姫乃澤うるる』とのシミュレーションを何年も積み重ねているからそれなりに話はできるけど、こんな近くで顔を見たら俺の『妄想彼女姫乃澤うるる』もまだまだだったと実感させられてしまう。


「……なに?根暗ボッチを袋叩きにする攻撃?」

「ぷっ、違うよ。単純に聞きたかっただけ」


「俺は毎日ウサギの世話して家ではマンガ描いてただけだから」

「そうなんだ」


 そう、特にマンガはまずかった。紙とペンのアナログだったからめちゃくちゃ時間がかかっていた。おかげで一浪することになろうとは……。


「どんなマンガ?」

「ラブコメ?……とか?」


 もろラブコメだったけど、それを他人に言うのはめちゃくちゃ抵抗があるんだよ。


「へー、学園ものとか?」

「そうだね。俺も学生だったし」

「主人公はヒロインとどんなことするの?」


 喰いついてきたよ!どんな話題でも拾ってくるな、このコミュニケーション・モンスターめ。


「主人公はヒロインの席に簡単な手紙を入れるんだ。メモみたいな」

「ふんふん」


 姫乃澤うるるが前のめりになった。『興味があるふり』に見えないんだよ。どこまで良い人なんだ。俺は、昔描いた漫画を思い出しながらストーリーを簡単に話してみた。


「でも、ヒロインからは返事がない。まあ、名前も書いてないメモだから当然なんだけど」

「あら~。名前を書けばよかったのに」


「高校生だから恥ずかしかったんだ」

「高校生だから恥ずかしくて言えない事ってあるよね!分かるよ!」


 なんか激しく同意してくれた。どこまで良い人なんだよ、姫乃澤うるる。


「それでそれで?」


「主人公は、幼馴染の女の子に迷惑だったかヒロインに聞いてもらうの」

「わぁ!幼馴染!」


「そしたら、次の日ヒロインからも主人公にメモ的な手紙が返ってくるの」

「わぁ♪上手くいったんだ!キュンキュンだね♪」


「でも、ヒロインからは『恥ずかしいのでみんなに見つからない様にメモを机に入れて』って言われるの」

「随分シャイなヒロインだね」


「まあ、高校生だから。オチとしては、その手紙の主は実は幼馴染で、ヒロインは主人公のことを何とも思ってなかったの。主人公ががっかりするのを見るのが嫌で密かに主人公のことが好きだった幼馴染が日々メモを書いてたって感じ」

「わぁ!意外!良いね!黒木くん才能あるよ!」


 姫乃澤うるるが胸の辺りで小さな拍手をしてくれた。みんなカラオケで盛り上がっているから音がしない程度の小さな拍手。


 昔のボツにしたマンガのストーリーが褒められて嬉しかった。


「ありがとう」

「あ、ねぇ。私たちも『秘密の交換メモ』しない?」

「え!?」

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