第7話:姫乃澤うるる

 私、姫乃澤うるるは待ちに待った同窓会に出席した。


 場所は有名な中華屋さん。


 うちの定食屋とは規模が違う。


 メニューや価格、店構えなど勉強になることも多いはず。


 それだけじゃなくて、高校時代の同級生に会えるのがたまらなく嬉しかった。


 高校は普段と少し違う私でいられた場所。


 みんな仲良くしてくれて、みんなの好意がすごく伝わっていた。


 それは、あいさつや何気ない一つの言葉からも感じていて、私はそれが冗談と言うか、ノリだということを知っていた。


 だって、凄いときは、放課後は自宅の書斎で詩集を読んで過ごしていることにされてしまった程だったから。


 そんな高校生が普通の学校に通っているわけないでしょう!


 ちょっと笑ってしまいそうだったけど、相手は真面目な顔をしていた。


 ここで笑うのは場をしらけさせてしまうという判断から『今は宮沢賢治を読み返しています』とか変な返しをしてしまったのはいい思い出だ。


 だから、私はそのお嬢様のような、アイドルのような役を引き受けることにした。


 たとえ冗談でもみんながちやほやしてくれるのは嬉しいし、いつか自分が本当にそんな存在になれたらいいな、と言う憧れとか、目標みたいなものとなっていた。


 それがきっかけで、私は自分磨きを続けてみんなにネタを提供し続けた。


 あるときは成績でクラストップを獲得しないといけなくなり、死ぬほど勉強した。


 ここである程度格好がつく結果を出さないとみんなを幻滅させてしまう。


 そして、このいただいた『役』を降ろされてしまう。


 ちやほやされなくなることよりも、みんなのがっかりする顔を見たくなくて、家ではすごく勉強した。


 その反面、学校ではそんな素振りは一切見せないようにしていた。結果、クラス1位を獲得したばかりか、勢い余って学年1位を取ってしまったのだ。


 これに一番驚いたのは私自身だった。


 でも、『これもクラスのみんなのおかげだよ』なんて、ちょっと意味が分からないことを言ったんだっけ。


 みんなのがっかりする顔を見るのが怖くて必死に勉強できたのだから、ある意味 嘘ではなかったのだけれど。


 あるとき、生徒会に推薦された。


 冗談じゃない。


 私みたいな『なんちゃって』と生徒会の人たちは全く違う。


 ちゃんとした世界で私みたいな偽物が通用するわけがない。


 しかも、帰ってから家の手伝いがあるのに!


 うちにはお母さんがいない。


 小学校の時に病気で他界した。


 あの時はすごく悲しかったけど、今はお父さんの手伝いをして定食屋をやってる。


 学校が終わったら一刻も早く帰って家の店を手伝いたいのに……。


 でも、お父さんに話したらやってみなさい、と勧められてしまった。


 私もクラスのみんなの期待には応えたい。


 家の手伝いは、家に帰ってからすればいい。


 私は思い直して生徒会に入ったんだったなぁ。


 そして、どこがどうなったのか、最後には生徒会長にまでさせられてしまって……。懐かしいなぁ。

 

 ちゃんとしないとと思ってた。


 その一方で、定食屋の娘だからか、『食』に関してはすごく興味があったなぁ。美味しい物を作ったり、身体に良いものを目指したり。


 お化粧品にも興味があった、本当の自分以上に自分をきれいに見せないといけない。


 高校には今の自分の原点がある気がする。

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