第2話 決められた自由

これは私が小学1年生のころでした。


部屋には柔らかい光が差します。

光に照らされた細かい埃。

束ねられたカーテン。

少しだけ錆びた窓枠。


今となってはセピア色でしかない。ほんの小さな思い出の一片。


『今日の授業は音楽を聴いてもらいます。思ったことを言ってください』

小さいころの私は音楽と無縁だった。知識もなければ楽器を触ったこともない。

先生がCDをプレーヤーにいれると、何か何かと生徒はみんなそわそわし始める。

CDプレーヤーのボタンを押すと、『シャコ』と深く鈍い音が鳴ります。

クラシック音楽だった。バイオリンが優しく音色を奏でる。そしてそれを包むようにフルートの音色が重なる。みんな真剣に聞いてた。

目を輝かせていた。


音楽が終わります。

それじゃあ皆いっていこうと先生が笑顔で言う。


今日は授業参観、私のお母さんが後ろにいることに非日常的な感覚がわいてくる。

どうやらみんなも同じなようで、私はその他大勢の一人だった。

お母さんはいつもよりキレイな服で私を見ています。


隣の女の子が目を輝かせて言います。

『お姫様!』

遠くの男の子が自信満々にいいます。

『高いお皿!!!』

先生は笑っていて、親もみんなクスクスと笑っていた。

「戦争!」

私がそう言った時先生は笑顔を崩しませんでした。

私にとってはそれが純粋なアイデアでした。城の中で沢山の兵士が戦争を始めんと綺麗に整列してる。そんな景色を考えていました。

『それは違いますね』

先生は笑顔のまま私を否定しました。すごく優しい人でした。ずっと私をかわいがってくれていました。

だからこそ、先生の冷たい笑顔がトラウマになりました。

その授業で、私はずっと黙っていました。服の裾を握って斜め下を向いて、小さくなっていた私は、初めてその他大勢の中から外れる恐ろしさに気づきました。

クソが。当時この感情に当てはまる言葉をまだ知らない私は、言葉で逃げることも出来ずひたすらに押しつぶされていった。あまりに無力だった。


して、個性と異端の違いは何なのだろうか。

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