思うまま
これは私が小学1年生のころでした。
部屋には柔らかい光が差します。
光に照らされた細かい埃。
束ねられたカーテン。
少しだけ錆びた窓枠。
今となってはセピア色でしかない。ほんの小さな思い出の一片。
『今日の授業は音楽を聴いてもらいます。思ったことを言ってください』
小さいころの私は音楽と無縁だった。知識もなければ楽器を触ったこともない。
先生がCDをプレーヤーにいれると、何か何かと生徒はみんなそわそわし始める。
CDプレーヤーのボタンを押すと、『シャコ』と深く鈍い音が鳴ります。
クラシック音楽だった。バイオリンが優しく音色を奏でる。そしてそれを包むようにフルートの音色が重なる。みんな真剣に聞いてた。
目を輝かせていた。
音質の悪いその音楽はきっと冷たく白い廊下まで響いていた。
音楽が終わります。
それじゃあ皆いっていこうと先生が笑顔で言う。
今日は授業参観、私のお母さんが後ろにいることに非日常的な感覚がわいてくる。
どうやらみんなも同じなようで、私はその他大勢の一人でありました。
お母さんはいつもよりキレイな服で私を見ています。
隣の女の子が目を輝かせて言います。
『お姫様!』
遠くの男の子が自信満々にいいます。
『高いお皿!!!』
先生は笑っていて、親もみんなクスクスと笑っていた。
「戦争!」
私がそう言った時先生は笑顔を崩しませんでした。
私にとってはそれが純粋なアイデアでした。城の中で沢山の兵士が戦争を始めんと綺麗に整列してる。そんな景色を考えていました。
『それは違いますね』
先生は笑顔のまま私を否定しました。すごく優しい人でした。ずっと私をかわいがってくれていました。
だからこそ、先生の冷たい笑顔が膿となって記憶に残ります。
その授業で、私はずっと黙っていました。服の裾を握って斜め下を向いて、小さくなっていた私は、初めてその他大勢の中から外れる恐ろしさに気づきました。
クソが。当時この感情に当てはまる言葉をまだ知らない私は、言葉で逃げることも出来ずひたすらに押しつぶされていった。あまりに無力だった。
して、個性と異端の違いは何なのだろうか。
今となっては心穏やかなものです。
ほんの一席の出来事。さぁ、今日の夕飯は何にしましょうか。
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