私は大麻の煙でした

孔雀と煙

帳が降りて、街頭だけが商店街を照らしている時間。車の音も聞こえなくなる時間に私は目を瞑る。

私の深く短い睡眠が父から譲り受けたショートスリーパーなのか、それとも明日を怖がる気持ちが産んだ枷なのかは分かりません。少なくとも私の頭が冴えている時間帯はいつもこう言います「素晴らしい人生」だと。冬には鼻をつんざきながら、夏には車のテールランプに集る虫を横目に私はイヤホンをつけてルイ・アームストロングの『なんて素晴らしき世界』を聞いて曲に歩幅を合わせます。


何でもないメキシカンレストランでブリトーを買って家に帰り、縦動画をスライドする片手間で食事をします。明らかに熱すぎるシャワーが癖になって、シャワー上がりに血が上って、身体が煙になってベッドに溶ける感覚がある。


寝る前の合法大麻が喉を蹴っている間は音楽が心地よく聴こえる。一切の不安は消えません。けれどそれを受け入れて、抱えて、自分と世界を愛して、慈愛の頬を優しく撫でるように眠りにつきます。


夢の中では誰かが泣いていて、その顔も分からぬほどに感情で埋もれていました。私はいつもその人を両手で包んで優しい言葉を投げかけました。その人が泣き止むことが無いが、気分がマシになっているように感じる。「大丈夫、辛かったね、苦しかったね、今後はきっともっと辛いことがある、だから今の貴方は幸せなんだよ。煙のように、何にでもなれるあなたは自由だ。」

腕の中で顔を上げたその人は私でした。


カーテンが通す朝日で目を開ける。まだ夢を見ているのか、はたまた又明日も夢を見れる世界であるか頭が矜羯羅がる。


私は煙です。形を持ちません。きっと誰かの記憶にも残らないでしょう。それでもきっと、いつかの瞬間を彩るモノとなるでしょう。


私は煙です。きっと誰かの夢心地になれるでしょう。きっと誰かを愛せる人になれることでしょう。


きっと私は、煙として怠惰に生きていく事でしょう。


部屋に籠る煙と斜陽が、カーテンの光の柱を作りました。

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