第25話 鼻唄
永遠に続くような暑さが終わり、ようやく涼しい風が吹いてくるようになった。
文化祭までは残り1ヶ月を切り、放課後に慌ただしく活動する生徒が増えてきていた。
芝山は「例の2人」を談話室に呼ぶと、ここ数日間の出来事を洗いざらい話した。
「なるほど…その石井ってのが黒幕ですか」
トモコは度の高い丸眼鏡をキラリと光らせると、うーんと唸った。
「藤井の妹の件は裏が取れたし、奴への復讐心は校長も俺も十分だ。こっちの動機は揃っているが、いかんせん突破する手立てがなくてな…」
芝山はそう言いながら、トモコたちの前にファイルを置いた。
「これは…?」
「敵の弱みを握ろうと色々調べたんだが…そこは徹底していてな。証拠と呼べるものは何一つ見つからなかった。結局、残ったのは被害者の涙と黒い噂だけってことだ」
「でも、被害者の数がそれだけあるなら、たとえ証拠がなくても集まればそれなりに…」
「それは難しいだろうな。石井は理事の他に金融会社を経営している。被害にあった者のほとんどは、あらかじめ弱みを握っている人間なんだ」
芝山が頭を抱えると、トモコもそれに続いて「うーん」と唸った。
だが、しばらくしてトモコは はっと目を見開くと、その度が強い眼鏡を外し、さらに目を大きくした。
「そういえば、藤井が初めに喧嘩するきっかけになった女の子、何か隠し事があるんじゃないんですか。その子が証言してくれれば、藤井の罪が晴れるかもしれませんよ」
「何度か聞いたが、口を開こうとしなくてな」
芝山が薄い頭をポリポリと掻くのを見て、トモコは食い気味に突っ込んだ。
「そりゃあ話しませんよ」
「なんで」
「怖いから」
「…」
瞬殺された芝山は少しいじけた様子で口をすぼめると、眉をひそめた。
「じゃあ、お前たちが話して来るか。同年代だし、打ち解けやすいかもしれん」
芝山の提案に、トモコはコクリと頷いた。
◇
2人を帰した後、芝山は一人 静かな談話室の窓から外の景色を眺めていた。
思えば、彼女たちは何故あんなに夢中になっているのだろうか。
バンドを組むとか何とか言っていたが、よくよく考えれば可笑しな話ではないだろうか。
あの2人は元から軽音部だったが、今ほど熱心に活動してはいなかったはずだ。
何か引っ掛かる。
だが、決して悪いことではない。
一つのことにとことん熱中し、例え困難が立ちはだかっても前へ進むということは。
(アナライザーの音楽みたいだな)
芝山はふふっと微笑むと談話室を後にし、職員室へ向かった。
そして、おもむろに自身のデスクを開け、イヤホンと古い型の音楽プレーヤーを手に取ると、再生ボタンを押した。
―――文化祭が終わったら、彼女たちにリクエストしてみるか。
芝山は鼻唄を歌いながら、そんな想いを巡らせていた。
だが、その2人がアナライザー復活に向け奔走していたことを、芝山は知る由もなかった。
【アナライザー】 天野小麦 @amanokomugi
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