第24話 反撃のきっかけ

(藤井の妹が?)


そんな事実を知ったのは初めてだった。


なんせ、藤井とはろくに会って話をしていなかったのだから。


まさか、2人の女子生徒に諭されるなんて思ってもみなかった。



これが本当なら、藤井の処分を見直し、石井にひと泡吹かせる絶好のチャンスだ。


いや、それが本当かどうか等、今の芝山にとってはどうでも良かった。


もしかしたら、諦めていたつもりでも、心の中ではずっと待っていたのかもしれない。


反撃のきっかけを。




「校長!大事なお話が」


気付くと芝山は、ノックをするのも忘れて校長室に飛び込んでいた。



「うーん、なるほど。そういうことだったのか。芝ちゃん、これはやり返すチャンスだよ」


校長がニヤリと笑うと、芝山も不敵な笑みを浮かべた。



その日の放課後、芝山は藤井家に連絡を取ると、コツコツと革靴を鳴らしながら彼の家に向かった。



「芝山先生、わざわざ来て頂いて…」


藤井の母親は深々とお辞儀をすると、芝山を居間に通した。


ソファに座り、出されたお茶を一口飲み込むと、芝山は早速本題に入った。



「本日お伺いさせて頂いた理由はですね、この前の圭太君への処分に関する件なのです」


藤井の母親はその言葉を聞くと、一気に顔が青ざめた。


「あの…やはり退学ということになってしまったのでしょうか」


「いえいえ、その逆です」


「逆?」


困惑する藤井の母親に、芝山は咳払いをしてから答えた。



「実はですね、ウチのある女子生徒から聞いた話なのですが、どうも圭太君の妹さんが巻き込まれていたそうだと」


「ウチのレナが?」


「ええ。それでね、『停学中の圭太君がまた暴力沙汰を起こせば、もっと厳しい処分が下るだろう』そう考えた相手の子が、レナさんを人質…と言っちゃあ聞こえが悪いが、まあ、あまり変わらんでしょう。それに怒った圭太君はまた事件を起こし、我々も停学処分を延長させた…といったところです」


「そんなことが…でも、圭太からは何も…」


「ええ、そうでしょう。私らも恥ずかしながら、生徒に聞くまでこの事を知りませんでしたから」


芝山はそう言ってお茶を飲み干した。



「しかし、なぜ黙っていたのでしょうか…話してくれれば、少しはやりようがあったのに」


「これはあくまで推測ですが、圭太君は家族を巻き込みたくなかったのだと思います。それに、証拠がないから勝ち目がない、そう踏んだのでしょう」


「証拠って…そんなもの必要ないでしょう!?だって実際…」


「…ですから!相手はそういうことを平気で言ってくる輩なんですよ」


芝山が声を張り上げると、しばらくの間沈黙が続いた。


芝山は目を固く瞑ると、絞り出すような声で言った。



「全ては私の責任です。圭太君を信じようとしなかった。助けようとしなかった。その結果がこれです。もっと圭太君に寄り添い、話を聞いていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。それに、相手にここまでやらせたのも、元を辿れば私の交渉に原因がある。これは私がケジメをつけにゃならんのですよ」


「いえ、芝山先生が思い詰めることはありません。相手の挑発に乗ったのも、先生に話さなかったのも、全部圭太が決めたことですから。あの子のことは、あの子にやらせます」


「…しかし、相手は2人。こちらが圭太君1人というのは、フェアじゃないでしょう?」


芝山が言うと、藤井の母親は黙り込んでしまった。



「まあ、ですから…」


芝山はニヤリと笑うと、胸を張って言った。


「私が1人、倒しますから」



妹さんが学童保育から帰ってきた後、母親と私の2人で詳しい事情を聞いた。


そして、やはり藤井の妹は人質まがいのことをされたということがわかった。


信じるには十分だったが、蛇を黙らせる証拠というのは、いくら聞き出しても見当たらなかった。



蛇を倒す方法…


今まで真っ正面から拳で解決してきた芝山にとっては、難しい問題だった。

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