第21話 蓬の毒蛇
敵地に乗り込む際、芝山は決まってこの紺のスーツを着る。
言ってしまえば単なるジンクスなのだが、相手を威圧するという目的においては効力を十分に発揮する。
現に芝山はこのスーツを着て、言い負けたことは今まで一度もなかった。
◇
相手の生徒が通う蓬町高校は、あまり良い噂を聞かない。
一応、スポーツが盛んな学校として知られてはいるが、一昨年も部活動で問題が起きたし、去年は教師の不祥事が相次いで発覚した。
「類は友を呼ぶ」とはよく言うものである。
芝山は嫌がる校長を引きずりながら、ようやく校門に辿り着いた。
「お待ちしていました。どうぞこちらへ」
蓬町高校の校長は落ち着いた口調で芝山たちを迎えると、応接室へ案内した。
(なるほど…)
その後ろ姿を見て、芝山は確信していた。
やはりこの校長は、ウチの校長と同じようなタイプなのだろう。
良くも悪くも、優し過ぎるが故にトラブルに巻き込まれやすい。
実際、蓬高の校長も理事長だかなんだか知らないが、周囲のわがままに振り回されている。
・・・
部屋に入るとまず、ソファに座る大男に目がいった。
男は緑と黒のチェックのスーツを着ており、その網目のひとつひとつが、まるで芝山を引きずりこむ眼のように見えた。
芝山は一瞬、男のフィールドに吸い込まれるような感覚に陥った。
流石に「蓬の毒蛇」と呼ばれているだけのことはある。
蓬高の校長は応接室のドアを固く閉じると、蛇との間隔を少し空けて横に座り、早々にだんまりを決め込んだ。
「蓬町高校の理事長・石井と申します」
毒蛇はそう言うと、芝山に名刺を差し出した。
芝山もすかさず胸ポケットに手を入れ、名刺を取り出した。
「では、早速、本題に入りましょう。今回の暴力事件についてですがね…」
石井が攻撃態勢に入った瞬間、芝山はすかさずカウンターを入れた。
「ちょっと待って下さい。暴力事件とは一体何のことです?ウチの生徒はおたくの息子さんの暴行から守ったのだから、正当性は十二分にあると思いますがね」
石井は芝山の言葉に少し驚いた様子を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「…息子から聞いた話と少し異なるようですが、こちらの間違いでしたかな?」
「ええ、そうでしょうね」
「それは失礼しました、訂正させて頂きます」
石井はそう言って軽く頭を下げた。
「いやね、私はこのことに首を突っ込むのは初めてでしてね。そこん所をはっきりさせておきたいのですよ」
「なるほど。分かりました。では、詳しくお話ししましょう」
石井はにっこりと笑うと、穏やかな口調で話し始めた。
だが、その顔の裏でどす黒い蛇が毒牙を剥いているのが、芝山には分かった。
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