〔教頭編〕
第20話 錆びた拳
桜町高校の教頭・
芝山は几帳面に保管された書類をバラバラと手で捲りながら、飲みかけの缶コーヒーを一口飲んだ。
芝山は今、30年ぶりに燃えていた。
◇
―――数ヶ月前
藤井圭太という男子生徒が蓬町の高校生に暴力を振るい、トラブルになった。
きっかけはウチの女子生徒が絡まれているのを見かけた藤井が、助けようと間に入ったことなのだが、要するに「逆恨みをされた」ということだろう。
(まあ、よくあることだ)
当時の芝山はその話を校長から聞いた時、特に気にも留めていなかった。
「…2人に『ばか野郎』とでも叱って、2・3発はたけば終わりますよ」
芝山がそう言ってあしらうと、校長は「とんでもない」といった表情で反論した。
「芝ちゃん、今のご時世、そんな荒ワザ通用しないよ。生徒への注意でさえ言葉使いに気を付けろ何だのと言われ、怒鳴りつければ親から批判を喰らいかねない時代なんだから。それにね、向こうの校長が親に圧かけられたのか分かんないけど、ウチの生徒を『退学処分にしろ』って言ってきてるんだよ」
「…それはいくらなんでもやり過ぎやしませんか?良いとこ停学処分でしょう。それに、向こうにも十分非がある」
「私もそう思うんだけどさ、親がその学校の理事長らしいんだよ」
「子供の喧嘩に親がいちいち口を出すんですか?」
「…今はそうなのかもね。とにかく、お願いだから芝ちゃんも来てよ。私、こういうの苦手なんだから」
校長は泣きそうになりながら芝山の手を握った。
「…分かりました」
芝山は薄い頭をポリポリと掻きながら、渋々その話し合いに同席することを承諾した。
◇
まあ、昔に比べれば何てことはない。
前任校ではそんなこと日常茶飯事だったし、その前の高校では何人か殴って更生させたこともあった。
芝山はそんな過去の功績を振り返りながら、仕事に戻った。
だが、現実はそんなに甘くはなかった。
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