第17話 兄妹①

話は、樋口さんにアドバイスを貰った次の日に遡る。


私はすっかりふてくされたトモコを、なんとかなだめようとしていた。



「だからさトモコ、もう一回だけ藤井あいつに会いに行こうよ。樋口さんが言ってたんだ、その人の音楽を聴けば心が分かるって」


「…あんな奴ほっとけば良いんだよ。それに、私たちには時間がないんだ。かまってる時間が無駄だよ」


 トモコは珍しく乗り気ではなかった。


やはり、藤井に裏切られたと思っている節があるのだろう。


それに何より、停学期間の交渉が上手くいかなかったことが、彼女のプライドを傷つけたのかもしれない。



 私はその日、一人で藤井の家に向かった。


「なんだか煮え切らない」というのが、正直な気持ちだった。


 ―――喧嘩の真相は何なのか。


 ―――藤井の音楽は本物なのか。


 何も知らないまま手を引くのは、気持ちが悪かった。


・・・


「あの、何かご用でしょうか」


 藤井の家の前で突っ立っていると、後ろから可愛らしい声が聞こえた。


振り返ると、小学校低学年くらいの女の子が、エコバッグを持って立っていた。



 バッグから飛び出したネギが、良い味を出している。


私は「頭を撫でたい!」という衝動をなんとか抑え、平然を装った。



「あ…私、藤井圭太くんの同級生なんだけど…彼いるかな?」


「今はいないと思います。用件があれば兄に伝えておきます」



(兄…?)


 私はその言葉に引っ掛かった。



「もしかして、あなた妹さん…?」


「はい。妹の藤井レナです」


・・・


 確かに、似ていると言われればそうかもしれない。


ふてぶてしい兄とは違って、レナはとても愛嬌がある。


ツインテールの髪型とふっくらした頬っぺたが、より一層可愛らしさを際立たせている。



もしかしたら、彼女は真相を話してくれるかもしれない。


そんな考えが頭をよぎり、私は心臓の鼓動を押さえつけながら尋ねた。



「お兄ちゃんの喧嘩について、何か知ってることとかある?」



 それを聞くと、レナは少し顔をしかめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る