第16話 勇気

 文化祭まで1ヶ月と少し。


私たちとトモコは練習に明け暮れていた。


 音楽の経験があると言っても、2、3年ぶりの演奏は流石に無理がある。


第一、指がついていかない。


中学時代に散々弾いたはずの曲も、一から覚え直すことになってしまっていた。



 それでも最近は何とか形になってきていた。


まだ人前で堂々と演奏できるレベルではないものの、私たちは昔の“勘”を取り戻しつつあった。


 文化祭での演奏会、これなら何とかなるかもしれない。


薄暗い空に光が差し、いつの間にか晴れの兆しが見え始めていた。


ただ1つ、藤井圭太という雲を除いて。


 ◇


 私とトモコは、再び藤井の家を尋ねていた。


嫌がるトモコを説得し、なんとかここまで連れてきたのだ。


 当然、ここまでするのにはワケがある。


今の私たちには彼の演奏技術が必要だし、喧嘩の真相を自ら話してもらわなければいけない。


普通は1ヶ月でバンドなど完成するワケがないのだが、彼がいれば話は別だ。


・・・


「…またお前らかよ。いい加減にしてくんねぇかな」


「してやんねぇ!」


 私がそう返すと、藤井は驚いた表情を見せた。



「明日の放課後、教頭の前でドラムを叩いてもらうことになったから。5時に学校の前に来て。待ってるから」


 言い訳をさせないよう、トモコがすかさず口を挟むと、藤井は完全にリズムを失った。


すっかりこちらのペースになり、藤井は少し居心地が悪そうにした。



「別に来たくないならそれで良い。だけど、誤解されたままが嫌なんだったら、来るべきだと思う。それに、私たちはあんたがのお兄ちゃんだってこと、知ってるから」


 トモコがそう言うと、藤井は顔を赤くした。



「…誰に聞いたんだよ」


「さあね~」


 トモコはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


 ◇


藤井あいつ、来るかな」


 帰り道そう呟くと、トモコは勇気づけるように私の肩をポンポンと叩いた。



「絶対に来るよ。何でかは分かんないけど、そんな気がするんだ」


 そんな彼女の言葉で、私はようやく重苦しい空気を吐き出すことができた。


 ふと見上げると、空には綺麗な夕焼けが一面に広がっていた。

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