第15話 竜の助言
藤井との一件があった後、私はまた彼に会いに行っていた。
“彼”というのは勿論、樋口竜也のことだ。
路上ライブが終わったのを見計らって、私は彼の元に駆け寄った。
少し歩いた先の公園のベンチで、私たちは腰を降ろした。
◇
「…まあ確かに今は色んな機器があるから、演奏者が少なくても何とかなるとは思うよ。ただ俺は…」
私はうんうんと彼の話に頷きながら、心の中ではもう一人の自分が叫んでいた。
(このままだと樋口さんとの約束を果たせないし、私とトモコが満足できない!それに、アナライザーをもう一度みんなに…)
「…だと思うんだ」
(え?)
私は一旦心を落ち着かせ、座り直した。
「あの、今のもう一度話してくれませんか」
「ん…ああ、だからね、一番大事なのは『君たちはどうしたいのか』ってことだよ。喧嘩とか学校とか…そんなことは音楽と何の関係もないだろ?そんなことに縛られないくらい、もっと強いものだと思うんだ、音楽は」
彼はそう言った後、少し恥ずかしそうにして横を向いた。
「音楽が強い…?」
「そうそう。ほら、俺だってデビューしたての頃は散々やんちゃしてたじゃない。」
「…事務所の社長を殴ったやつとか?」
「うん」
「生放送で消火器振り回したりとか?」
「そう」
「あ、川にダイブとかしてましたよね」
「そう、よく覚えてんね…」
「あと、テレビカメラ殴って壊したのとか!」
「まあ、そんくらいにしとこうか。キリがないし」
そう言って彼はまた顔を赤くした。
・・・
彼の話を要約すると、それはつまり―――
「…私がやりたいようにやれば良いってことですか?」
私がそう言うと、彼は優しく微笑んだ。
「そう、その藤井って子が本当に全部悪かったのかは彼の口から聞くまでは分からないけど、彼の
夜の公園の冷たさが、少しだけ和らいだ気がした。
それは単なる偶然でなく、彼のひと言が生み出した温もりに違いなかった。
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