第14話 本物のワル

 私とトモコは、彼の家のインターホンを鳴らした後、震えが止まらなかった。


確かに藤井は悪そうな顔をしているけれど、根は良い奴だと勝手に認識していた。


(まさか、あんなになるまで人を殴るなんて)


 私は彼がふと見せた優しさに、疑問を抱き始めていた。


 ・・・


 ガチャッ───


 ドアがゆっくりと開き、藤井がひょいっと顔を出した。



「なんだ、お前らか…それで、どうだったんだ?説得できたか?」


「…できなかった」


「だろうな。まあ、俺のことは諦めて、さっさと新しいメンバーでも探すと良いさ」



 藤井のからかうような態度に、私はひたすら拳を握り締めて我慢していた。


 しかし、どうやらトモコはそうではなさそうだった。


トモコは眼鏡を外すと、藤井の方へずんずんと近付いていき、彼の胸ぐらを「ぐわっ」と掴んだ。


 彼の身体が少し浮くほど、トモコは精一杯の力を込めていた。


(トモコ…)


 私はただ、彼女を見守っていることしかできなかった。



「んだよ、何か言いたいことでもあんのかよ。お前らが説得し損なったのが悪いんじゃねえか」


「違う!」



 トモコはそう言うと、物凄い剣幕で藤井を睨んだ。


ふと見ると、彼女の目にはいつの間にか涙が溢れていた。



「あなたがあんなに酷い人だったなんて、知らなかった」


「…写真、見たのか?」



 藤井はトモコの手をそっと離すと、ポリポリと頭を掻いて言った。


「あれは俺がやったんだ」


「嘘だよ…高校生同士のケンカで、あんなになるわけないじゃない」


 私は必死に抵抗した。


嘘であるはずだ、嘘だと言って欲しい。


そうすれば、教頭にも話の言い訳がつくし、停学期間を縮めて貰えるかもしれない。


 しかし、彼の次の言葉は、私のそんな都合の良い考えを、全て否定してしまった。




「嘘じゃない。本当に俺がやったんだ。カッとなって、気づいたらボコボコにしてた。周りが止めたけど、俺は最後までやめなかった」


 彼はそう言った後、黙って上を向いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る