第10話 最終手段
「ねえ、ホントに行くの?」
トモコは不満げな顔で私に尋ねた。
「行くよ!約束でしょ」
私の顔を覗き込んだトモコは、観念した様子で肩をすくめた。
私たちは放課後、学校の駐輪場に待ち合わせると、彼女を先頭に“不良バンドマン”の家に向かった。
きっかけは、つい4日前のことだった。
◇
文化祭まで2ヶ月を切っていた。
楽器を弾ける者が少ない中、ドラムとなると、そうそう見つかるものではない。
ゲリラ放送では「初心者OK」と言ったものの、あと2ヶ月でレベルを合わせるのはかなり難しい。
やはり経験者を引っ張ってくる必要があった。
しかし、その数少ないドラマーも他のバンドチームに所属していることが多く、簡単に引き受けてはくれなかった。
「なんでウチの持ってくわけ?」
「借りるだけとか言って、結局勧誘する気なんでしょ」
そんな調子でなかなか話は進まなかったが、それも当然と言えば当然であった。
バンド結成は難航を極めた。
「私だって、急にメンバーを引き抜かれたら良い気持ちにならないよ。でも、そこを頭下げて頼んでんじゃない」
トモコは勧誘に失敗して教室に戻ってくると、口を尖らせて言った。
ちなみに、トモコが愚痴をこぼすことなんて滅多にない。
今日はトモコの担当だったが、明日は私が勧誘に行かねばならない。
憂鬱な気分だった。
・・・
≪妥協の一週間≫も、既に3日経っていた。特にこれといった進展もなく、ただ時間だけが過ぎていた。
私が手書きのポスターを廊下の掲示板に貼っていると、トモコが階段をかけ登り、物凄い勢いで走ってきた。
トモコは膝に手をつくと、息を切らしながらも途切れ途切れに話し始めた。
「F組に…バンドやってた子が…いるんだって。しかもかなり上手いらしい。中学の頃は…大会で優勝したこともあるんだって」
「じゃあ、今すぐ会いに行こう!」
私がトモコの手を引くと、トモコは首を横に振った。
「それが…そいつ不良らしいんだ。この前も隣町の奴を3人病院送りにして、今停学処分受けてるっぽいよ」
「マジで?」
「うん。だからさ、良い話だとは思うけど、やっぱりやめとこうよ。」
トモコはなだめるように笑って言った。
「でもさ、わざわざそれを言いに来たってことは、トモコも少しは賛成なんでしょ?」
「…まあ、『不良』ってとこを除けば優良物件かもしれないけど…でもなー」
揺らぐトモコの肩を、私はガシッと掴んで言った。
「じゃあさ、こうしようよ。あと4日はちゃんと勧誘して、もし誰も集まんなかったら、その不良くんのトコに行く、それで良いでしょ?」
「まあそれなら…」
トモコは渋々承諾した。
「最終手段だし、大丈夫だよ」
私はそう言って励ました。
◇
その日の放課後。
カラスがカアカアと鳴き、夕焼けが私たちの背中をジリジリと焼く中、私たちは“不良バンドマン”の家に向かっていた。
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