第9話 衝突②
「あんたは“アナライザー”を作りたいわけ?」
「違う!」
私は思わず強く反対した。
「そう、“音楽”をやりたいんでしょ。樋口さんや山口さんに見せる音楽を。なら、別に彼らそっくりにする必要はないし、私たちが考えた編成とかやり方でも良いじゃない」
彼女の言い分は全くその通りで、頭が上がらなかった。
そうではないと言いながらも、無意識の内にアナライザーの『形』にこだわっていたのは事実だし、協力してくれているトモコにこんな態度を取るのは正直言って恥ずかしい。
成長していないのは、私の方だったのかもしれない。
私は教室を飛び出し、水道の蛇口を捻った。
9月の後半に入り、そろそろ水が冷たくなってくる頃だ。
何回か顔に当てると、ブルブルと身体が震えた。
沸騰しきった頭を冷やすのには丁度良かった。
樋口竜也に会ってから、私はまたアナライザーを求めて、血がうごめき始めていた。
あの時の熱狂をもう一度感じたい。
それも観客としてではなく、今度は彼らの視点から感じてみたい、そう思っていた。
その瞬間、私は熱病にかかったみたいに、周りのことが極端に見えなくなっていた。
とにかく一刻も早くバンドを結成させたい、その想いでいっぱいだった。
少し経つと、段々気持ちが楽になってきていた。
トモコが肩に手を置いたのが分かった。
振り返ると、心配した様子の彼女の顔があった。
私は蛇口を閉め、彼女の目を見つめた。
「ごめん、私周りが見えてなかった。早く“アナライザーみたいになりたい”って思って、焦ってた」
トモコは驚いた表情を見せたが、すぐに口を開いた。
「ううん、私こそごめん。中途半端な気持ちであれこれ言っちゃって。懸ける想いは一緒じゃなきゃダメだよね。それなのに、私…」
「いや、トモコは悪くないよ。私が間違ってた」
私はポケットからハンカチを取り出し、頬に付いた水滴を拭いた。
ぼやけていた視界が段々鮮明になり、目の前にはニッコリと笑うトモコがいた。
「そのドラムのアプリ、トモコ使えるの?」
私が聞くと、トモコは胸を張って答えた。
「もちろん!でも、やっぱり私もドラムは人間の方が良いな。あと一週間は粘らない?」
トモコの提案に私は強く頷いた。
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