第7話 竜の目覚め②
1時間があっという間に経ち、グラスの中の氷も姿を消していた。
それでも彼の話は尽きそうになかった。
私も彼に言われるまで気づかなかった。
「…それで、あ!もうこんな時間だ。ゴメンな、つい楽しくて喋り過ぎたみたいだ。つまんない話で退屈だったろ?暗くなるまで女の子を留めておくなんて、悪いオジさんだな」
彼は頭に手を当てて笑った。
「いえ、すごい楽しかったです。良ければまたお話聞かせて下さい」
「はは、君はお世辞が上手いな…そういえば、まだ名前を聞いてなかったな」
「あ、はい!私は宮内理子と言います」
「宮内…そうか、理子ちゃんか、よろしくね」
彼はそう言って手を差し出した。
私はマメだらけのその手を、しっかりと握った。
喫茶店を出て、駅前まで彼はついてきてくれた。
「ホントに送ってかなくて良いのかい?遅くなったのは俺のせいだから、全然構わないんだけど」
「いえいえ、あの大スターに送ってもらうなんて、そんなことさせられませんよ!…それに、貸しも作っておきたいですし」
「!…いやあ、参ったな」
彼は笑って答えた。
◇
駅の改札口、私は大事なことを思い出して立ち止まった。
「1つ言い忘れてたことがあるんですけど」
「なんだい?」
「私の親友が山口さんの大ファンなんですけど、会ってもらえたりしませんか」
「うーん、山口ねえ…あいつは気まぐれな奴だからなあ。それに、音楽やってる奴としか会おうとしないしね」
「…じゃあ、今度の文化祭で私たちがアナライザーの曲を披露する、って言ったら来てくれますか」
「…あいつなら、面白がって来るんじゃないかな。それに俺も見てみたいな、理子ちゃんの演奏!」
「わかりました!楽しみに待ってて下さい」
私がアナライザーのマークを作ると、彼もそれに応えた。
彼の中の竜が、目を覚ましたかのように思えた。
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