第7話 竜の目覚め②

 1時間があっという間に経ち、グラスの中の氷も姿を消していた。


それでも彼の話は尽きそうになかった。


私も彼に言われるまで気づかなかった。


「…それで、あ!もうこんな時間だ。ゴメンな、つい楽しくて喋り過ぎたみたいだ。つまんない話で退屈だったろ?暗くなるまで女の子を留めておくなんて、悪いオジさんだな」


 彼は頭に手を当てて笑った。


「いえ、すごい楽しかったです。良ければまたお話聞かせて下さい」


「はは、君はお世辞が上手いな…そういえば、まだ名前を聞いてなかったな」


「あ、はい!私は宮内理子と言います」


「宮内…そうか、理子ちゃんか、よろしくね」


 彼はそう言って手を差し出した。


私はマメだらけのその手を、しっかりと握った。


 喫茶店を出て、駅前まで彼はついてきてくれた。


「ホントに送ってかなくて良いのかい?遅くなったのは俺のせいだから、全然構わないんだけど」


「いえいえ、あの大スターに送ってもらうなんて、そんなことさせられませんよ!…それに、貸しも作っておきたいですし」


「!…いやあ、参ったな」


 彼は笑って答えた。



 駅の改札口、私は大事なことを思い出して立ち止まった。


「1つ言い忘れてたことがあるんですけど」


「なんだい?」


「私の親友が山口さんの大ファンなんですけど、会ってもらえたりしませんか」


「うーん、山口ねえ…あいつは気まぐれな奴だからなあ。それに、音楽やってる奴としか会おうとしないしね」


「…じゃあ、今度の文化祭で私たちがアナライザーの曲を披露する、って言ったら来てくれますか」


「…あいつなら、面白がって来るんじゃないかな。それに俺も見てみたいな、理子ちゃんの演奏!」


「わかりました!楽しみに待ってて下さい」


 私がアナライザーのマークを作ると、彼もそれに応えた。


彼の中の竜が、目を覚ましたかのように思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る