第5話

(なんで…もうこんなにしたいんだよ…)

 さっきから10分も経っていないのに、さっきの気づくか気づかないかの下腹部の違和感は、無視できないものになっていた。

 布団の中で見えないことを良いことに、太ももをさすって、足をクロスさせる。下腹をそっと押すと、さっきとは比べ物にならないほど痛くて、思わず背中を丸めてしまう。

(おしっこおしっこおしっこ…)

さっきまでおいしいと感じていた雑炊も、味が分からない。食べれば食べるほど、お腹が圧迫される気になって、出口が緩んじゃう気がして。いつもより食べるスピードが遅すぎて、もどかしさでお腹がまた疼く。

「お腹いっぱい?」

トイレのことばかり考えていたから、目の前にスプーンが差し出されているのに気づけなかった。

「無理すんなよ。薬飲むか」

「はるさん…」

「ん?」

トイレに行きたい、ただそう言えば良いだけなのに、俺の目は滲むばかりで。

「っひっ、ぅ゛ぐ、」

「どーしたん?気持ち悪くなっちゃった?」

「ちが、ッヒグ、」

「そっかそっか。落ち着いて言ってみ?」

頭を撫でられて、涙を拭われる。

背中を摩られて、安心するけど、おしっこが出そうになって、ソコを握りしめて、腰を前後に振ってしまう。

「トイレ行きたいぃ…」

お腹がはち切れそうで、出口がキュンキュンして。みっともない声で、子供みたいな言葉で、それを訴える。

「おしっこな。じゃあ出ちゃう前に早く行こっか」

布団を捲られて、押さえている部分があらわになる。

「もう、もれるっ、」

首に手を回さないと落ちてしまう。だから、押さえられなくて、太ももで春さんの腰をはさみあげる。

「いつから行きたかったんだ?」

「っひっ、ぅっ、ごはんたべて、すぐ…」

「もー、言えばよかっただろー?」

お腹にソコををぐいぐい押し付けながら、涙の止まらない顔を埋めながら。

「だって、だいじょうぶっておもった、」

「で、大丈夫じゃなかったんだ」

「さっきいったばっかだもんっ、」

何をそんなに泣く要素があるのだろう。分からないのに止められない。

「おしっこぉ、はやくっ、でちゃうでちゃうっ、」

「まてまてまてまて。ほらついた」

ずりっとパンツごと降ろされて、腰掛けさせられる。

じょおおおおっ、じょおおおおおお…

「よっしゃセーフ。こっちもたれな」

腰掛けた膝に跨った春さんの胸に顔を埋める。

「間に合ったんだから泣きやめ。辛いだろ?」

「っひ、ぜんぜんがまんできないっ、うごけないし、おしっこひとりでできないもん、」

「風邪だから仕方ないだろ?いつでも連れてってやるから、行きたくなったらすぐ言えよー?」

「っひっ、う゛~…おしっこしんどいもん…」

「ははっ、おしっこしんどいってなんだ」

俺が何を言っても春さんは笑って頭を撫でてくれる。だから、もっと、もっとってなってしまう。



「…なおった…」

次に目が覚めると、びっくりするくらい体が軽くて。時計を見るといつも起きる時間。いつのまにか床の布団で寝ていて、春さんは俺のベッドに寝ている。

きゅぅ…

ふと、膀胱が限界で慌てて飛び起きた。


じょぼぼぼぼぼぼ…


「あー…しにたい…」

便器に落ちる小便をみながら、昨日の光景を思い浮かべる。漏らして、あんな、赤ん坊みたいな格好して。

めちゃくちゃ恥ずかしい。なのに、何かドキドキして。

(もー春さんの顔みれねーよ…)

「もー良いのか?」

「ぅわっ、」

手を洗い、台所で水を汲んでいると声がかかる。

「あ、の…きのうは…」

熱はもうないはずなのに、昨日の出来事が邪魔をして、顔が熱い。

「迷惑を、おかけしました…」

「いえいえ。しっかし昨日は面白かったよ。お前が薬あんなに嫌いだったとは…」

「え、なんですか、?」

「あれ?覚えてない?飯食ってる時におしっこ漏れそうってぐずぐずになって、ご飯食べさせてーって、食べさせてやるって言ってんのにずっと泣いてるし」

「え、ちょっとまって…おれ、漏らしてそんで、着替えさせてもらったのは覚えてるんですけど…」

「その後だな。一回寝て、起きた後の。薬の時なんか、「苦いのヤっ」なんて言ってさ。え、ほんとに覚えてないんだ」

クスクスと笑いながら昨日の俺の愚行を話す春さん。

「うぁー…しにてぇ…」

「まあまあ。元気になったのなら何より。疲れてたんだろ。でもまー、今日一日は安静にしとけ」

「はい…ほんとに、ありがとうございました…」

「しっかしまあ、写真とっとけばよかったな。もっかい風邪ひいたらみれたり?」

「ぜ、っ、た、い!!嫌です!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話 こじらせた処女/ハヅ @hadukoji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ