第3話

「…い…おーい、」

ペチペチと冷たいものが頬を叩く感覚で、意識が浮上する。

(あ、おれ、ねてた…?)

「起きたか…結構重症っぽい?」

「はるさ…?しごと…」

「ちょっと早く帰ってきた。有給消化しねえとだったし。とりあえず着替えるか。飯食えそう?」

「きがえ…ぁ、ちが、これ、ちがくて、」

間抜けな格好で、垂れ流した後が見え見え。ドアも開けっぱだし、何が起こってるかなんて一目瞭然だろう。

「…ごめ、なさい…」

「大丈夫大丈夫。手出せる?洗うぞ」

「あ…はい…」

時間が経って乾きかけの手。ベタベタしてて気持ち悪い。

春さんがレバーを回すと、蛇口から流れる水。熱い手のひらを突っ込むと、冷たくて気持ちいい。

ゾクゾクっ、

「んんっ、」

(おしっこ…まだある…)

水を見たからか、さっきほどではないけれど、微かに重くなる下腹部。

(いま、しちゃった方が…)

そう思って力を抜くけれど、隣に春さんがいる状況で、恥ずかしくて上手く出せない。

「あ、ありがとうございます…」

壁にかけてあったタオルで水気を拭き取られて、春さんの冷たい手が触れた。

「着替えとってくる」

軽く俺の頭を撫でた後、個室を出て行き、俺の部屋に入る春さん。棚をあさっている音がする。

(今のうちに…)

お腹をさすりながら、力を抜く。じわりと冷たくなった下半身が温かくなって、やがて大きな水流となって便器に落ちていく。

「んっ、ふぁ…」

じょろじょろじょろ…

(こんな大きい音出したらバレるっ、)

慌てて括約筋に力を入れて我慢するけど、なかなか止まらない。

(はやく、はやくおわれっ、)

じゅぃぃ…

身をよじよじして、お尻を何度か揺らしたら、それはゆっくり止まった。もう、お腹には残ってない、と思う。下腹も重くないし。

「我慢せずに全部出しちゃいな」

耳がいきなりこそばゆい。春さんの声だ。いつのまにいたのだろう、スッと後ろから手を差し込まれて、さっき俺がさすっていた下腹をグッと押される。

じょっ、じょぉ…ろろ…

「~~~っ、なんっ、で、」

「や、音の止まり方が不自然だったから」

「きこえてたのっ、?」

「まあ、ドア開いてたし」

「はずかし、」

「一緒に暮らしてるんだから小便の音ぐらい聞こえるだろ。変なとこ気にすんなよ」

違う、それとは全然違うのに。服着たままなのが恥ずかしいのに。

片方でお腹を、もう片方で腰を撫でられて。おしっこをさせられてるのが恥ずかしいのに。こんなことなら最初から止めなきゃよかった。

(おわれおわれおわれっ、)

秒数にしてほんの30秒だったはずだけど、俺にとっては永遠のように感じられ、熱とは違う頬の火照りを感じた。

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