第2話

 思わず太ももを擦り合わせる。

(ど…しよ…)

寝る前に3杯もお茶を飲んでしまったから、溜まるのは当たり前。こんな尿意じゃ再び寝ることができない。

何回も何回も手をついて、体を起こすけれど、頭がフラフラして重心が定まらない。うつ伏せになって四つん這いになるも、目が回って蹲ってしまう。

(や、ばい…ほんとに…でる…)

さっきまでの「したい」が、いつのまにか「漏れそう」に進化して、太もも摩るだけじゃ足りなくて、ソコを撫でるようにいじくる。

「っは、ぅ、」

なんとか壁に体を預けて足を下ろす。

「ぃったぁ…」

立とうとしてももちろんそんな力はないから、崩れ落ちて膝を打ってしまった。

「っ、といれ…」

ぱんぱんのお腹を抱えて、床を這いずるように進む。トイレが隣の部屋でよかった。それでも、まだ部屋すら出れていないけれど。

シィッ…

「や…」

押さえた性器が心なしかあったかい。

それでも、顔面を床にへばり付けたまま、尻を突き上げて、イモムシのように進むしかない。

シィ…

足を動かすたびに、腹圧で膀胱が押されて、苦しい。

廊下のど真ん中で、モジモジと腰を揺すって、力の入らない手で出口をついばんだ。

「まじで、でるっ、」

息を吸うだけでも、いっぱいいっぱいで、はくはくと息が浅くなってしまう。

「ふっ、っぁ、ぁ、」

しゅぃぃ…

「や、」

バンっと目的地の扉を開け、便器に縋り付いて体を起こし、紐に手をかける。

ジュゥ…じゅぉお…

「も、だめっ」

ぼやけた視界越しに見たズボンから、液体が垂れる。

「ゆか、よごれる、」

パニックになって、わけわからなくなって。ありったけの力を込めて、便器にまたがる。いつも用を足す時と違う、逆向きでおまるのような格好。

「あっ、はやく、ぱんつ、ずぼん、」

そんなに固く閉めたはずじゃないのに、紐がなかなか取れてくれない。

しょおっ、しょおおおっ、

「あっ、まって、まって、」

バダバダと水面に落ちる。パンツもズボンも突き抜けて。慌てて前をぎゅうぎゅう握りしめるけど、馬鹿みたいに勢いを増して、その手はただの置物だ。

じょおおおおおっ、

本格的な水流となって、重い水音が鳴り響く。

「あ…」

一気に力が抜けて、頭を水道部分にぶつける。

「おもらし…やっちゃった…」

口に出すと一気に情けなさが込み上げて、涙が溢れる。

お尻までぐしょぐしょになった下半身。早く着替えて、洗濯しないといけない。だけど、指の先一本も動かすのがしんどい状態でそれをするのは途方もない作業で。

「もー、やだ…」

止まらない涙も、顔も、体も、全部熱くて、しんどくて、それを紛らせるように目を閉じた。


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