3.ファンタジーとSFの違いとは?

 ファンタジー作品における「よくあるお約束」は、実は「過去の技術や情報のほうが、現代のものよりも高度である」「その過去の栄光はもう失われ、今では入手困難である」という設定に支えられているのです。だからこそ「イノベーション」をファンタジーに持ち込むと、破綻が起きる可能性が高い。


 逆に、SFというジャンルでは、イノベーションが起きてもあまり不都合は起きません。SFにもいろいろありますが、基本的には「未来」のお話です。つまりそれは、我々が今現在生きている、この巨大産業文明の延長線上の世界である、ということです。そこでは、技術革新は常に起き、古いものはすぐに役立たずになる。「機動戦士ガンダム」の宇宙世紀で、ガンダムよりも後に作られたZガンダムのほうが高性能なのは、当たり前のことでしょう。


 ただし、SFでも、あるパターンの作品群では、イノベーションがない設定になっていることもあります。「未来史」などと呼称されることもあるタイプのストーリーですが、このタイプのお話では、ファンタジーと同じ「昔はよかったなあ」が採用されています。つまり、「現代の我々が生きる科学文明は何らかの原因で滅亡してしまい、それが『過去の栄光の時代』になっている未来」という設定です。


 有名どころでは、アーサー・C・クラークの「都市と星」や、オールディスの「地球の長い午後」などのSF小説があります。どちらも「文明社会が滅びてしまってから長い年月が経った後の超未来」であり、主人公はその世界を冒険して「世界の真実」つまり「過去の高度な文明の存在と、その滅亡の理由」を知る、といったストーリーです。このパターンも、日本のライトノベルや漫画、アニメなどで何度も採用されているので、読者の方々もすでにご存じでしょう。


 ロボットアニメでも、「重戦機エルガイム」などでは、「高度な技術が失われているので、昔と同じ戦闘ロボット(A級ヘビーメタル)はもう作れない(レプリカは作れるが)」という設定がありました。「エルガイム」の世界観から派生した「ファイブスター物語」では、「古代超帝国の技術で作られた昔のロボットのほうが強いが、今はもう技術が失われて作れない」と明示されています。これは、ロボットものでありながら、SFではなくむしろファンタジーの世界観である、と言えるでしょう。

(「ブレイクブレイド」なども、このタイプの設定ですね。物語の中で、いずれ「過去に起きた科学文明崩壊の真実」が明かされると期待していたのですが……)


 ガンダムシリーズでも「∀ガンダム」では、「機動戦士ガンダム」から始まる「宇宙世紀」シリーズの作品が「黒歴史」として「失われた過去」の位置づけになっていたのは新鮮でした。これなども、ファンタジー的な設定ということになります。∀ガンダムは「発掘された古代の超技術」の産物であり「今の技術ではとても生産できない」のです。


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