始まりのダンジョン
ダンジョンRTAを開始すると選択した途端、目の前が真っ白になる。
そして、先ほどまでは辺りが真っ暗だったのが、背の低い草花広がる草原へと様変わりし、もう一度ウィンドウが表示される。
『開始まで……3……2』
突然のカウントダウン。
場所は……前と変わらないな。モンスターもここからは……
突然のカウントダウンを前に、俺は動揺する事無く瞬時にスイッチを入れ替え、3秒という短い間に周囲の状況把握に努める。
『1……』
始まる。
俺は前傾姿勢を取り、スタートに備える。
『……スタート!』
開始の合図が出された瞬間、俺は一気に走り出す。
「しゃあっ! やってやるぞ!」
前世の引きこもりの影響がこの体に出ていないか心配だったが、走り始めて1分は過ぎるが息が切れる事が無い事からその心配はないとほっと一安心。
ちゃんと、ステータスに遵守してくれているな。
前世で運動を全然してこなかったので、もしかしたら走る体力がないのではないかと頭の片隅で考えていたが、そこはステータスの能力値が反映されているようだ。
これでひとまず、唯一の心配事が消えたから……ここからは始まりのダンジョンが誇る、運ゲーの始まりだ。
このステージ。始まりのダンジョンは説明にもあった通り、クリア条件がフィールドに隠されている扉を発見するという凄い曖昧な表現で表されていたが、簡単に言うと、この草原ステージの何処かに隠されている扉を発見し、中に入ればステージクリアという何ともありきたりなステージとなっている。
フィールド自体もそこまで大きくない癖に、何故初回クリア時間が1時間を超えていたかと言うと……
「扉が自然と一体化してるから分かりずらいんだよな」
とにかく見つけづらい。それに尽きる。
何の情報も持っていない初心者がこのダンジョンをクリアしようとしたら、良くて3時間。悪かったら半日以上時間がかかる……なんてのもザラだ。
え? じゃあ、俺は当てもなくフィールドを走り回っているのかって?
蓮はスタートと同時にある方向を周囲に脇目も振らずに走り抜けている最中であった。
ノンノン。実はこのダンジョンには簡単な攻略法がある。
しばらく走り続けた蓮は、あるへんてこな形をした木を見つけると急に立ち止まり。
「くそっ! 外れか!」
急な方向転換をして、また走り始めた。
その攻略法とは……扉が現れる固定の地点5箇所を覚え、その中からランダムで1箇所だけ出現した地点を探し回る。それだけ。
このダンジョン。始まりのダンジョンは別名、星型ダンジョンとも呼ばれており、扉が現れる場所が星を描いた時の5つの頂点に丁度当てはまる事からそう名付けられている、運ゲーダンジョンなのだ。
俺は始まりと同時に一番近い場所に出現する扉を探しに行ったが、今回はあえなく撃沈。次に俺が目指している場所はさっき行った場所から一番近い扉出現ポイントだ。これがこのダンジョンの最適解だからな。
それから数分間、代り映えしない景色を横目で見ながら走り続けるといった事をしていた時。
「うん? あれは……」
水色のゼリーの様な物体が進行方向にバッタリぶつかる所で跳ねていた。
結構重要な事を話すのを忘れていた。
ダンジョン。普通、ダンジョンといったらモンスターが現れるよな。
ブレイブダンジョンクエストもその例に漏れず、そのステージ危険度とそのフィールドにあったモンスターが出現する仕様となっている。
今回なんかは危険度1の簡単草原ステージだからスライムが出現したってようにな。
スライム――危険度1。素手でも殴り倒せるほどに弱く、スライムの中心に存在する核を壊すと一撃で消滅する。
まぁ、スライムは雑魚中の雑魚だ。武器を持っていない俺でもあいつを簡単に倒せるし、そこら辺にいるスライムを数匹倒せばレベル1の俺なんかはレベルアップするだろうが……
蓮はスライムがいる事を知りながらも、スピードを一定に保って直進し続ける。
そして、一匹と一人がぶつかると思われた次の瞬間。
「プヨプヨ!?」
「上失礼するぜ」
スライムの頭上をハードルを越える様に通り過ぎる蓮。
あんなのに構ってる時間あるわけないだろ。
考えてもみろ。あいつを倒すのには今は走っている足を止めて、攻撃というモーションを挟まなければならない。
そうなったらどうだ?
皆もお気づきだろう。そう……RTAのタイムが遅れる!
蓮はドヤ顔をしながら走り続ける。
そう。この男。冥利蓮は何よりもタイムを気にする男。それが目の前にドラゴンがいても……可愛い女の子がいてもやる事は変わらないだろう。
こうして蓮はスライムを避け、走り続ける事さらに数分。
「あった!」
蓮の目の前に現れたのは小さな湖。
「今度はあって……よし!」
俺は湖の近くにそびえる大きな大木を走りながら凝視し、少しの違和感がある事発見する。
大木に不自然にある、突起物の様なもの。あれは……扉の取っ手。
段々と大木と蓮との距離が縮んでいき、ようやく大木に隠された扉が蓮の目の前に現れる。
「早く……いけー!」
右手を前に出し、衝突する勢いで大木めがけて走り抜けると思われた瞬間、いち早く大木につく取っ手部分を持ち、手前に引き上げて中にある空間に飛び込む蓮。
「はぁはぁはぁ……どうだ?」
その場に倒れ込み、荒くなった息を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。
そうして、息を整えようと地面に横になっていた時、突然ウィンドウが開き。
『ロード中……ロード中……』
初回最速クリアタイムはいくつだっけ……でも、20分は確実に切ってるはずだ。どうだ……
俺は寝ころびながら結果が現れるのを待っていると。
『NEW RECORD! おめでとうございます! グリード様のお名前を殿堂へと記録しますか?』
「うしっ!」
前世で見慣れた文章がウィンドウへと表示される。
「記録はいくつだ?」
その画面を一旦飛ばし、次の画面へ行くと。
『記録 16分13秒』
最速クリアタイム23分22秒を大きく上回る記録が表示されていた。
この世界の常識ではあり得ない記録。もし、いち冒険者がこの記録を自分で打ち立てたとしたら、その場で暴れまわるほどに喜び、周りに言いふらし始めるだろう。しかし、この男。冥利蓮にしてみれば……
「……でも16分台か。前世なら100位台にも乗れない記録。やっぱし、最初の運ゲーを勝たないと初回12分台はきついな」
満足のいく結果ではないようだ。
「こんな記録で殿堂に名前残すのも恥ずかしいし……パスで」
自分のプライドがこんな低記録で殿堂に残すことは許さないようで、あっけなくパスを選択する。
「しかし、この世界……RTAを意識してないのか? そうでもしないとあんな遅いタイムが最速記録として残っている訳がない」
前世では1秒以下を争うダンジョンRTA。しかし、この世界では数秒の記録の更新どころか、分単位で記録を上書きできてしまう。
「まぁ、NEW RECORDを出せたからいいか。じゃあ、お楽しみの報酬タイム!」
蓮にとって2番目に楽しみなダンジョンクリアの報酬。
NEW RECORDを出したから最高報酬なのは間違いないし……
ブレイブダンジョンクエストではダンジョンクリアの報酬はクリアタイムによって決まる。
ダンジョンをクリアすると最低報酬は確実で、そこから最速クリアタイムを基準に報酬の豪華さがグレードアップしていき、最速クリアタイムに近い記録ほど豪華になる。
『Sランク報酬……』
きたっ。Sランク報酬。
報酬はEから始まり、E→D→C→B→Aそして、NEW RECORDを打ち出すと貰える最高報酬S。
初回ダンジョンクリアの時は他とは比べ物にならないほどいい報酬が貰えるから、この瞬間だけはいつもドキドキするな。
そうして、蓮に与えられた報酬は……
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