第8夜

 悪魔が召喚したミノタウロスのような魔物は召喚陣から影が闇を掻き分けて現れる。その魔物たちは、蓬郷が主と戦っていることに気が付き、凶暴な牙を剥き出しにした。

 

「あなたたちの相手はこっちよ!」


 鈴音の声は、その場に響く鋭い刃のようだった。彼女が放った一撃は、魔物たちの肉体を貫き、仲間の魔物の頭が貫通した様子を見て、叫び狂う魔物。注意を引き付けることに成功したが、怒りのままに鈴音の方に襲いかかってくる。


「この魔物知ってる。2級程度、あとはみゅう一人で十分」

 

 寝転がっていたみゅうのくもは、一瞬にして変貌を遂げた。そのくもが、自らの形を変え、巨大な羊の姿に変わった。


「メェーメェ!あいつをやつけて」


 みゅうは羊にお願いすると、みゅうを守るように魔物との間に立ちはばかり、ゆるくてふわふわな見た目の羊からとは思えないパワーとスピードで魔物を連続で殴りつけた。

 

 1体は殴り飛ばされ、衝撃と共に校舎の壁に激突した。その衝撃で砂埃が舞い上がり、校舎が震えた。そして、もう1体は思いっきり地面に殴り叩かれた。地面がわずかに陥没するほどの威力。魔物は受け止めることもできない重量に押しつぶされた。


「やっぱり大したことない!次は悪魔……今みたいにつぶす」


 さっきまでの天使のような姿とはとってかわり、こっちの方が悪魔と言ってもふさわしい顔でほほ笑んでいた。


(こっわ!特殊班にはまともな子がいないの?)

 

 みゅうを一番近くで見ていた鈴音は、彼女の変貌ぶりに目を疑った。まるで彼女の中に悪魔が宿ってしまったかのように、彼女の表情が一瞬で豹変したからだ。

 

 その瞬間、鈴音の心臓がざわめき、背筋に悪寒が走った。みゅうの瞳は以前とはまったく異なり、深淵のような暗さを湛えていた。その瞳には何かを探し求める執拗な執念が宿っているようにも見えた。またそれと同時に戦場の仲間としての頼もしさを感じていた。


 ぐぎゃぁぁぁーーー!!


 先ほど頭を貫かれた魔物は怒りの咆哮を上げ完全な状態で立ち上がっていた。


「嘘でしょ……頭を貫通したのに!……消滅していない?……こんな再生力聞いたことない!」


「しつこい。でも再生できなくなるまでつぶすだけ……メェーメェもう1回!」


 みゅうは再生してくる魔物を見て、かわいくメェーメェにお願いするが、もう一方で魔物がつぶされるたびに狂気満ちた笑い声を上げながらはしゃいでいる。


 (私の攻撃は効いてる。でも再生が早すぎる。討伐するには再生を上回る手数……今の私にはできない……私にできることとなると……できるか分からないけど……いや!ここで決める!)


 鈴音は決意に満ちた表情で、言葉を紡ぎ始めた。その瞳には、まるで闘争の炎が燃え盛っているかのような輝きが宿っていた。

 

「みゅうちゃん!私に少し協力して!今からあいつらをまとめて吹っ飛ばす!」


 彼女の声と言葉からは闘志と決意が溢れ出ていた。みゅうは鈴音の言葉に耳を傾け。その決意の強さから、彼女の要求に応える。

 

「うん!いいよ。どうするの?」


「3体をまとめて拘束してほしい!あと、少し時間が欲しい。」


「わかった!メェーメェ頑張って!」


 

 (ふぅ……集中……集中……私の力のすべてと細胞まですべてを消し去るイメージ……)


 鈴音は瞑目し、周囲の喧騒を遮断するために深く息を吐き出した。まるで嵐の中で沈黙を見つけるように、内なる平穏を求めた。その集中の深さは、心が空間に溶け込むような感覚。彼女は自らの存在を忘れ、ただ一点に精神を集中させた。

 

 ライフルの冷たい金属が彼女の手に沁み込み、指先から先へと力が伝わった。それはまるで鋼鉄の脈動、体の一部のように感じられた。光が徐々にライフルの先端に溜まり始め、それはまるで彼女の意志が物理的な形になって現れるかのように大きくなっていく。


「これじゃだめだ!まだ……まだまだ……もっと!強く!」

 鈴音の内なる闘志が、確かに力強く彼女の全身を駆け抜けているのがわかった。


「いつでもいいよ!」


 みゅうはメェーメェが3体の魔物をまとめて足ぢ召している様子を見て伝えた。


 ゆっくり目を開け、しっかりと呼吸を整えながら、照準越しに狙いを定める。

 

(今だ!)


 確信の元、一気に引き金を引く。そして、全力の一撃が放たれた。

 魔物たちが反応した時にはすでに遅すぎた。鈴音の一撃は彼らを貫き、地面を巻き込みながら進んでいった。

 その音はまるで雷鳴のように轟き、光はまばゆく、まるで星のように輝いていた。


 魔物たちは光の中で塵すら残すこと許されず、えぐれた地面のみが残されていた。


 全力を出し切った鈴音は、息を切らせながら立ち尽くしていた。


 「今のすごかったね!……大丈夫?」

 

 その声は優しく鈴音に響いた。しかし、未だに戦いの中まだ倒すべき敵は残っている。


「大丈夫、私のことは気にしないで、悪魔の方を!」

 

 彼女の声は強く、まだ戦いが終わってないことを主張した。


「分かった……ありがと!」


 みゅうはメェーメェに乗って悪魔の元へ進んでいった。


 今だけは自分の可能性と役割を少し果たすことができたことに満足しながら、空を仰ぎ見ていた。


 月の光の中に潜む影……その存在に少し離れていた鈴音は気付いていなかった。


 

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