第7夜

 3人が若干気まずい空間で各々の時間を過ごしていると、唐突にアラーム音が鳴り響いた。


 アラーム音と共に通信端末から出動命令が発せられた。出動場所は偶然にも前回と同じ高月市だ。


 一体そこで何が起きているのか不安を抱えながらも、鈴音は事前に緊急時のために配布されていたクリスタルを割り、光と共に消えた。


転送先は夜の街中、月の光が眩いぐらいにあたりを照らしている。


「望月到着しました。ゲートの反応はどうなっていますか?」


 先に現着していたエージェントが、周囲を警戒しながら鈴音に答えた。

 「この付近にゲートの前兆が確認されました。もう少しで発生すると思われます。警戒を緩めないでください」


「特務隊の方がいらっしゃるとお聞きしているのですが、あなた方2人がそうですか?」


「2人?私は違うわよ」


「じゃあ、もう一方はどちらへ?」


 エージェントの質問の意味が分からなかった鈴音は、周囲を見渡したが、意外なことに、眠そうな少女しか姿がなかった。


「みゅうだよ?あなたじゃなくてみゅうだよ」


 眠そうな目をこすって答える。羊のモフモフしたぬいぐるみを抱いている姿に鈴音は不覚にも少し可愛らしいと思ってしまった。


「ごめんなさい。みゅうちゃんね。さっきの部屋にいた男の人知らない?」


 もう1回聞いても、みゅうは首を横に振った。

「みゅうね、あいつ嫌い。いつもね、団長の言うこと聞かないの」


 鈴音は、みゅうの言葉に耳を傾けながら、困った表情を浮かべた。


「皆さん、ゲートが出現しました!近くの学校です。ここから100m進んだあたりにあります!」


 エージェントが声を大にして伝えると、一斉に皆がその方向に向かい始めた。


「みゅうちゃん、行こう!」


 みゅうはうなずき、ゲートに向かって駆け出した。


 ゲートに近づくにつれて、前回と同様に大量の魔物が溢れ始めていた。その姿は凶悪であり、脅威を感じさせた。

「遅かったじゃないか?俺がイケメン過ぎたから、恥ずかしがって、出てこれなかったのかと思っていたよ!」


「そんなわけないでしょ!って後ろ!」


 魔物溢れだすゲートを背に、金色の派手できらびやかな鎧を身に纏っていた蓬郷に危険が迫っていることを、鈴音は伝えた。


 しかし、その心配は杞憂に終わった。


 まさに圧倒的、舞い踊るかのように、剣を振るうと、魔物は霧散していった。


「すごい……」


 さっきまで心の中で本当に強いのか疑っていた鈴音だったが、実力を認めざるを得なかった。


 蓬郷の身に纏った金色の鎧が月光を受け、まるで煌めく星のように輝いているかのように見えた。その光が魔物を浄化し、その姿が霧散する様子は、まるで幻想的な光景の中で起こる奇跡のように、鈴音の目を見張らせた。

 

(……でも何なのこのバラの花。うっとうしい!)

 

 美しいと思った反面謎の無意味に巻き散らされるバラの花の演出に腹が立った。


「あいつがいると、みゅうすることなくなる、だから寝るね」


 どこからか取り出した浮遊している雲の上に気持ちよく体を預け、眠り始めたみゅう。その様子はまるで天使のようであり、彼女の平穏な姿に鈴音は微笑んだ。


 我に戻った鈴音は、慌ててライフルを構えたが、彼は、その必要がなくなるほどの凄まじいスピードで敵を蹴散らした。


 しかし、ゲートから出現した魔物たちの一方的な襲撃は、すぐに収まった。

 

 (あの時と同じだ。嵐の前の静寂。)


 周りにおぞましい気配が漂い始めた。彼女の全身の毛は、その異様な空気に逆立ち、不安と恐怖が体を支配した。


「やつが来る!気を引き締めて!」


 鈴音は前回の教訓を踏まえ、気合いを入れてライフルを構えた。


「言われなくても、俺のカッコよさの前には無意味だ!」


 彼が自信に満ちた笑みを浮かべながら言うと、ゲートから悪魔が現れた。

 その瞬間、彼は黄金に輝く剣で先制攻撃を仕掛けた。同時に、鈴音の高出力のレーザー攻撃が悪魔に直撃した。


「これはなかなかうれしい挨拶じゃないか!」


 煙が晴れると、軽く剣を片手で受け止めた無傷の悪魔が嬉しそうに話し始めた。その光景は、鈴音たちの心に不安と恐怖を増幅させた。


 再度目にもとまらぬ速さで剣を振るう。鈴音の攻撃は空を切り裂くような速さで繰り出されるが、悪魔は軽々とそれをかわす。その反応の速さに対し、鈴音も負けじと攻撃を続けるが、悪魔はそ消す素振りすらなく、全く警戒してい。


 蓬郷は危険を感じて距離を取ると悪魔はゆっくり話し始めた。

 

「そこそこやるようだが、お前じゃないな。気配から、ここなら私の部下を殺したやつがいるかと期待したが」

 

 剣を一度地面に突き刺しながら悪魔の言葉に応える。

 

 「なめられたものだ……。これが俺の全力だと思ってもらうと困るな。勝負はここからだろうに」


 その言葉と共に、蓬郷の身体から黄金の輝きが増し、全身をきらきらと光るオーラが包み込む。


「まあいい、今夜はお前で勘弁してやる。その前に……」


 悪魔が展開した魔法陣から3体の大きい人型の魔物が召喚された。

 

 現れた魔物は、巨大な牛の頭を持ち、筋骨隆々の上半身が人間のような姿をしていた。その頭には鋭い牛角が生えており、恐るべき武器として輝いていた。その身体は、強靭な筋肉で覆われ、立ち姿からは無限の力強さが滲み出ていた。


(あれは2級レベルの魔物が3体も!それに悪魔が倒された?どういうこと?)


「そっちはお前らに頼んだ!」


 疑問が錯綜する中、任された魔物の処理を鈴音とみゅうに任された。


「了解!そっちも気を付けて!」

 

「……しかたない。みゅうの眠りを妨げるあいつ、許さない……でも先にこいつらからさっさとやつける」

 

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