第3夜

急いで現場に駆け付けた進藤団長は少し焦っていた。


 一体、一体の魔物はせいぜい7級、大体のエージェントなら余裕をもって対応できる。スタミナも限られている中で、このまま湧き出され続けるのはまずい。


 何か突破口はないのか?


 この規模のゲートは10年前以来どんなイレギュラーが起こるか分からない。なるべく早くこの場を収束させたい……。

 

 ゲートから無限に溢れ続ける魔物を蒼炎を纏った剣で一掃しながら解決法を考えている。


「進藤さん、ゲートの色が変色しています!出現する魔物の数も減っています」


 高台からの全体を監視と狙撃で戦闘に参加していた鈴音は、いち早く変化を察知して通信機を使って団長に状況を伝えた。


 魔物が引いている?体制を整えるのに猶予をもらえるのはありがたいが、この規模のゲートがこれで終わるとは思えない!

 

「油断はするな!これで終わると……」

 

 全体に指示を出そうと声を出した瞬間!

 ゾッゾゾッ!!!!(うっ!……動けない!なんだこの恐ろしい圧は!?)

 

 その場の全員が身の毛もよだつ、恐怖に支配された。

 本能から発される危険信号。

 全員の動きが静止し、その場にわずかな静寂を生み出した。


「はぁ!やっぱりこの程度じゃ全然ダメージがない」


 ゲートから出てきたのは黒い羽根に大きな角、鋭い牙を持ったまさに悪魔そのものがだるそうに現れた。

 異常な存在感を放つ悪魔は、全員の視線を受け止めた。

 

 ありえない!あれは、悪魔!この世界に入ってこれないように結界が張られているはず!結界が弱まっているなんかの噂、聞いてないぞ!

 「お前!どうやって入ってきた!!!」

 

 直ちに進藤は戦闘態勢に移ったが、一方で悪魔は全く警戒しないまま、周囲の人間を見回してがっかりした。


「今回は外れか。久しぶりに入れたというのに全く残念だ。……ん?おっ!これは……近くに面白そうなのがいるな……」


 何に気が付いたか分からないが、悪魔は新しいおもちゃを見つけたかのようににやにやと笑った。


「今回はただの忠告だ。……あの方が復活なされた!すぐにこの世界も、現実も我らの物となるだろう……今日は他に面白いものを見つけたから見逃してやる。次はせいぜい退屈させてくれるなよ」


 悪魔は豪快に笑いながら、ゲートと共に消えていった。


 恐怖からの解放でバタバタと腰を抜かして崩れる周囲を見ながら、収束していくゲートに安堵した。しかし進藤団長はこれから起こるであろう大きな戦いに、不安を抱かずにはいられなかった。


「これはまずいことになった…」


 すぐに世界会議を開く必要がある。それに加えて悪魔相手にまるで勝てるイメージが湧かなかった。イメージが力に直結するカイ」で戦うにおいて、もっと対策を考える必要がある。それに、あの悪魔が言っていた面白い存在ってのも気になる。


 耳につけている、通信機に手を当て状況把握を急いだ。


「鈴音!大丈夫か?周囲の状況はどうだ?」


「な、何とか大丈夫です。数十体の魔物が防衛線を超えて町に放たれました。それよりも、すいませんでした……私……恐怖で全く動けませんでした……」


 何もできなかった自分に対して、怒りと悔しさの声が聞こえてきた。


「何もできなかったのは私も同じだ。これからは先ほどのような敵と戦うことになる気を強く保て!」


 一難去って、次の対応に移ろうとすると……少し遠いところで目も明けられないほどの眩い光が発せられた。

 少し遅れて届く轟音。

 明らかに異常な力だ、さっきの悪魔だろう、せっかく見逃されたのに、このまま巻き込まれたらたまらない。


 瞬時に判断すると、何と戦っているのかなど、多くの不安はあるが次の命令は1つしかなかった。

 

「撤退だ!まずは安全を確保だ!」


 撤退命令を聞いたエージェントはこれ以上巻き込まれまいとすぐさま現実世界へと退散していった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 夜は目覚ましとともに、無事いつもの時間に起床すことができた。体はいつも通りの十分な休息の結果元気に動かせる、気持ちも自分の理想のシチュエーションを経験できとても興奮している。

 「だが……疲れた………全ッ然、疲れが取れた気がしない」


 精神的な疲労に悩まされていた。


 あんまり乗り気がしないが、とりあえず学校行くか……あと黒羽にこのこと伝えないとな。


 よし!気合い入れろ!今日も僕は僕の理想を貫く!


 

 学校の教室にて一人の少女が朝早くから覚悟を固めていた。

 

 (落ち着け~愛菜、挨拶するだけだよ)

「夜君、おはよう!」

(あれ?いきなり下の名前は失礼かな?)

「桜井さん、おはようございます」

(これはさすがによそよそしすぎるかも……あれ?いつもみんなと、どうやって挨拶してたっけ?)


 あれこれと、あーでもない、こーでもないと悩んでいるうちに、すでに教室は賑やかになっており、ほとんどの生徒は登校していた。また夜もその中の一人だった。


 今日も始業の鐘が鳴る。


(えっ?もうチャイム!今日こそ挨拶しようと思っていたのに……。でも落ち着け愛菜……落ち着くんだまだ今日も始まったばっかりだよ。席も隣り。だからチャンスはまだたくさんある!)

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 (ダメだ~。もう学校が終わる。チャンスはいっぱいあったのに、いざ話そうってなると言葉が出でこない……。よし!次のチャイムでいく!覚悟をきめろ!愛菜!今日こそは!)

 

 皆が待ち望む終業の鐘が鳴り響いた。

 

 (よし今!)

 

 「あの!お、おはようございます!」(あれ~私何言ってんだ?もう朝じゃないのに!あ~失敗した~、終わった。変な子だと思われた~~!)

 

 「はっ!……おはよう!助かったよ、起こしてくれてありがとう!貴重な時間を無駄にするところだった」


 緊張のあまり時間に合わない話をしてしまったが、奇妙な夢を見てしっかりと休息が取れず、軽く寝かけてた夜を偶然起こす結果となった。


 「えっ……はい全然大丈夫です」


 愛菜は心の中で思いっきりガッツポーズをした。

(やった~!いっぱい話せた!こんなに話したらしたらもう友達だよね!きっとそう!)


 愛菜が初めて言葉を交わし喜んでいる間に、もう夜は教室から姿を消していた。


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