第2夜

 とある地下深くの指令室で緊急アラートがけたたましく鳴り響いている。指令室の雰囲気は一刻の猶予もないほど張りつめていた。

 

 「緊急事態発生!高月市に次元ゲートの発生!対応可能なエージェントは直ちに直行するように!繰り返す。緊急事態発生!高月市に次元ゲートの発生!対応可能なエージェントは直ちに直行するように!」


 様々なエージェントがあらゆる所へせわしなく連絡を取り事態は混乱を有している。


「10年前の事件と同等規模の高エネルギー反応確認!ゲートからはすでに大量の魔物が解き放たれています!」


 今回の災害の規模が特定されると現場はさらに焦りに包まれた。


「日本の各支部長および特殊隊の応援を要請だ!実態は一刻を争う。アメリカおよび欧州連合への緊急招集も要請だ!私も直ちに現場へと向かう。鈴音お前もついてこい!」


 指令室で一番の責任者が的確な指示で現場の混乱を押さえていく。


「言われなくても、もちろんついていくわ!あのレベルの災害は二度と絶対起こさせない!」


 少女は怒りと覚悟を決めた。エージェントから手のひらに収まる大きさのクリスタルの結晶とライフル一式を受け取った。

 

 すぐさまクリスタルを割り虹色の光と共にその場から消え去った。


「進藤団長もこちらを!」

 

 少女と同様にクリスタルと刀を受け取った男も虹色の光と共にその場から姿を消した。


 一方で急に出現した危険度の高い次元ゲートの対応に集中しているエージェントと常に鳴り響いている異常事態のアラームが、近くにもう1つ新たに出現した高エネルギー反応の次元ゲートの存在の発見を遅らせた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ダッダッダッダッダッ!!

 ギャーッ!ギャッ!ギャーッ!

 ダッ!ダッ!ダッ!!

 

 いつもの平和な街なら聞こえるはずのない銃声が轟き、弾丸は金属音を伴って乱れ飛ぶ。


 魔物に銃弾が当たっては魔物が霧散しては次から次へと波のようにゲートから溢れ続ける。


 エージェントはゲートを包囲しながら全方向より魔物の流出を防ぐ。

 焼け石に水のような現状。確実に戦線は後退している。


 「隊長!このままだとすぐに戦線が崩壊します!」


 「何とか持ちこたえろ!ここが正念場だ!すぐに応援が来るはずだ!一発一発にもっと敵を穿つイメージを込めるんだ」


 現場の全エージェントは銃を乱射し続けているが一向に希望が見えない戦いに一人一人と銃の発射速度が遅れていく。

 

 「あきらめるな!イメージを保ち続けろ!ここが崩壊すると世界がまと混乱の渦に巻き込まれるぞ!絶対に止めるんだ!」


 隊長の鼓舞は虚しく魔物の波の進行が急速に早まった!

 一度攻撃が弱まると連動して周囲にも絶望が広まっていく。

 加速していく波の速度

 

 「もうだめだ!!!」

 最前線のエージェントが目の前に迫った魔物に接触する刹那……


 キィーーン!

 

 光輝く高密度の光線が周囲の魔物を一掃した。

 

 「望月鈴音!現場に到着しました。只今より加勢します」


 現場は一時の危険を乗り越えた安堵に包まれたが、絶えず群れ出てくる魔物がせっかく押し返した波が再び迫ってくるとすぐさま空気は張り詰めた。

 しかし希望は消えていないことを伝えるように蒼炎爆発がゲートの中心で巻き起った。


 爆発のように感じたものは一人の男の刀に纏われた青い炎の薙ぎ払いだった。


「遅れてすまない!持ちこたえてくれたことに感謝する!すでに各地へ応援要請を送った」


 団長の一言と実力をもって波を押し返し始め、現状は解決していないが最悪の事態からその場は救われた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一方そのころ夜は現状を分析していた。

 

 「周りを見渡したところ見覚えのある風景、しかしパジャマのまま外に出た記憶がない。足が汚れてないことから夢遊病では……」

 

 顎に手を当てぶつぶつと呪文のように独り言を唱えながら状況の整理している。


 「僕の仮説が正しければおそらく夢だな。しかも夢の中でも自分の意識を自由に操れているということは……おそらく夢を夢と自覚できる明晰夢の可能性が高い」


 いきなりの状況に混乱することなくむしろ夜はとてもワクワクしていた。


 「明晰夢だとすると、ついにあれをやる時が来たな…」

 右手を天高く掲げ1度大きく指を鳴らす。周囲に反響する音、何度も想像してきたたイメージを今!


 夜を黒い竜巻が取り囲み、竜巻が霧散する。


 そこにはシンプルかつスタイリッシュな漆黒のロングコートに身を包んだ夜がたたずんでいた。


 「フッフッフ……ハッハッハッハッハッ!!……アッハッハッハ!!…………最高じゃないか!!」


 これだよこれ!やりたかったことすべてできる気がする!

 まずは試しに日本刀を出してみるとしよう!


 夜が瞳を閉じ、手を前に伸ばした。

 刀が具現化するところを鮮明に想像した。イメージだ……イメージ…………掴んだ!!

 想像の刀を思いっきり掴み目を開けると、そこには想像した通りの刀が手に握られていた。

 楽しい!多分人生で一番興奮している!

 普段の夜からは考えられないほどゆるんだ表情をしている。

 

 これは遊び甲斐がある!僕の夢のなかだから、思いっきり好き勝手してもいいよね……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 何時間ぐらい経ったんだろうか?先ほどからずっと月が同じ場用にあるように感じる。加えてこの世界ずっと真夜中設定だから時間経過がわからないな。不満があるとせばそこだけだな。

 

 技も想像通りに発動できた、何より現実世界より体が軽い。可能ならいつまでもこの世界に浸っていたい。


 そうだな練習だけじゃ詰まらないし、腕試しと行こうか!


 じゃあたくさんの敵が湧き出るような物を「ジィ…ジッ……」想像して……?


 夜が想像すると同じタイミングで背後の空間が切り裂かれた。またそこから悪意をたぎらせた魔物の大群がが溢れ出てきた。


 あれ?まだイメージが固まってなかったんだけどな?まあ……明らかに敵ぽいのが出てきてくれたから、こいつらを名誉ある僕の初陣とさせてもらうか。


「まずはソードスタイル。よっ!」


先ほどの練習を活かし刀を創造した。


 また剣道で体の一部のように扱い慣れた刀と常にカッコよさを求めた想像力が組み合わされ、一振り一振りが強烈な衝撃波となって圧倒的な破壊を生み出した。

 

 夜が負ける所が想像できないほど圧倒しているが、魔物は依然として無限に出てくる。

 

「確かに無双は楽しいけど、こうも圧倒的だと退屈だ。ずっと戦ってるのもありだけど……肉体的というより、精神的な疲れが予想以上に溜まっている気がする。とりあえず今回はあそこに向かって全力をぶっ放してフィナーレを飾ろう」


 夜は腰を深く落とし、抜刀の構えで完全に静止した。持っているイメージ、気力をすべて刀に込め始めた。

 目指すはすべてを凌駕する最高にカッコいい一撃。そう、この世界を切り裂くような……一閃。


 溢れ出た魔物が迫ってこようがぎりぎりまで全力を込める!

 一生に一度経験できるかどうかのこの最高の経験を……全力で楽しむ!


 魔物が飛び掛かってくる瞬間、最大限、力をためた抜刀。この技に名前を付けるとすると……。

 「夢想「何やっ…アッ…ッ」」

 それは光よりも速く、音を置き去りにした鋭い一閃が前方に凄まじい轟音とともに放たれた。

 抜刀直前に裂け目から何か出てきたような気もしたが……満足!!最高だった!

 それにしても疲れた……そろそろ寝………………。


 空間に向かって思いっきり全力で刀を薙ぎ払ったことで空間にの裂け目が広がり夜は意識を手放すのと同時に、吸い込まれていった。



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