夢の世界で圧倒的強者に成り切ったら、世界を救済してたようです。

たんぽぽ

第1夜

 小学2年生の時「中二病」という概念を彼から伝授されたとき僕に雷が降り注いだかのような衝撃と憧れを抱いた。それと同時に多大なる羞恥心も抱いた。


 カッコよさと羞恥心を天秤にかけ、当時の僕が考え抜きたどり着いた先は

 

 誰にも文句が言えないぐらい完璧でスタイリッシュを追求した自由な存在

 つまり「ハイエンド厨二病」になることだった。


 それ以降僕は「ハイエンド厨二病」になる夢のために持てるすべての力、知識、時間をささげながら生きてきた。

 

そしてこれからもそう生きていくつもりだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 高校性2年生となった今この瞬間もカッコよさの追求のため片手で心理学系の文庫本を持ち知識のアップデートを欠かさない、たとえ授業中であろうと。


 「じゃあこの問題を桜井答えろ!」


 僕はたとえ授業中に先生の話を無視して読書に耽っている中で当てられても動じない。


 なぜならこの空気の中で完璧に答えるとカッコいいから。

 そしてそのためにすでに高校の範囲の学習は終わらせている!


少しの沈黙「間」をしっかり使うことで注意を引き付ける。


「3x^2+6x+5です」


そして詰まることなく鮮やかに答える。


「せっ、正解だ……」


 正解されても何とも言えない反応をする先生を後に僕は再び本へと視線を移す。先生よ、今日も実によいアシストだった。

 

 こういう日々の小さなカッコいいの積み重ねが僕をより理想へと近づいていく。また同じ理想を抱く同志へのアドバイスとして学年1位の成績を取っておくことが大きなポイントだ。そのポイントを押さえておくと自動的に僕がカッコいいと噂が流れてくれる。


 そうこう考えているうちに授業も終わる。さて、帰るとしよう。僕は少しも時間を無駄にしないのだ。


 「夜!ちょっと待って!今日も道場行くの?」


 ちょうど下駄箱で靴を履き替えているときに聞き覚えのある声がする。

 顔を上げると、呼吸を整えている我が同志がいた。


 「そうだな、いつもと同じように特訓する予定だ。黒羽は今日部活いかなくてよかったのか?」


 「今日はオフだからな、久しぶりに俺も特訓に付き合うよ」


 「それはありがたい、それに時間も限られている、早速行こうか」


 僕たちは下校するほかの生徒たちと同じように、いつもの道場へと向かって歩き出した。


「それにしてもこないだ剣道の全国大会優勝したんだって?すごいな!それでいて成績も学年1位とか、どんな時間の使い方したらそんなことできるんだよ?」

 

「目指しているところが違うからね。みんなは大会で勝つことを目標にしているみたいだけど、僕はいつだって銃を持つ相手に圧勝することを念頭に置いているし、本気で勝てる特訓をしてる。それにこれは黒羽だって同じことができると思ってるよ、君もかつては志を共にした仲間じゃないか!またあの頃の君に戻ってくれると信じてるよ」


「その話はやめろよ。思い出すだけで恥ずかしくなってくる。それに僕はもう卒業したんだ。そんなことよりさ、まさかあの時みたいな特訓してるんじゃないよな」

 自分の過去の話をなかったことのように黒羽、話をすり替えた。


「もちろん続けているよ。あの頃よりもさらにパワーアップしているから楽しみにしといて」

 僕は夢の実現のために、常にアップデートを怠らないのだ。


「でも、残念なことに大会で優勝してからというもの誰も相手をしてくれなくなったんだ」


「まじかよ、練習相手がいないのは優勝が原因じゃないと思うけどな」


 ただでさえドン引きする特訓をしていたことを知ってる黒羽は特訓に付き合わされた人たちに同情しながら気軽に相手をするっといったことを後悔し始めた。

 しかし時すでに遅く、ちょうど道場の前についてしまった。


「そういえば黒羽はここに来るのも久しぶりだよな」

 僕は慣れた手つきで扉をスライドさせた。

 

「「こんにちは」」


「いらっしゃい、あら!今珍しいわね今日は黒羽君も一緒なのね!」


 師範は久しぶりに黒羽が来てくれたことを喜んだ。


「師範お久しぶりです!」


「久しぶり、元気にしてた?今日は久しぶりの練習?」


「はい!高校生活も順調です。えっと、今日はこいつの特訓に付き合う感じです」


「そう、、頑張ってね、特訓ならあそこでお願いね」

 

 夜の特訓に付き合うために来たと知った師範は急によそよそしき反応で、部屋を指さすと、すぐさま奥に消えていった。


「黒羽!こっち!早く始めよう」

 

 そそくさと示された部屋に入り、明らかにほかの子供から見えないように仕切られた部屋に入ると同時に、早速竹刀を手渡された。


「さあ!どっからでもかかってこい!」


「かかって来いって、お前、、面はつけないのか?それに竹刀は?」

 

 黒羽の嫌な予感は当たった。それはあまりにも無鉄砲な特訓方法だからこそ、だれも付き合ってくれないことを理解した。


「必要ない。刀を持った相手ごとき素手で制圧できなければ銃には勝てない!」

 さらに付け加えると余裕をもって最小限のモーションで躱すことにこそカッコよさの真意がある。


「でもせめて防具をつけないと」


「わかるだろう黒羽、安全な環境で得られるものより、リスク覚悟で得るものの方が大きい。それに何より考えてみろ刀を素手で圧倒するカッコよくないか?」


「はぁ~、分かった」

 というよりも分かってしまった。そして同時に自分の口角も上がっているのも分かった。

 普通に考えたら狂っている。だがそれにカッコいいと思ってしまった自分も確かに存在する。

 そんな気持ちはとっくの昔に捨ててしまったはずになのに夜といるときだけ黒羽は素直な自分になれた気がする。


「どうなっても知らないぞ!」


「そう来なくっちゃ!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はぁ……はぁ……まじでバケモンかよ!」

 

 ほぼすべての攻撃を躱すことに成功した僕は疲れて倒れている黒羽に水分を差し出した。

 黒羽は一瞬ですべて飲み干した。


「これでもまだまだ全然修行が足りない、今日はありがとうとても良い修行になったよ。それにそっちもいい運動になったろ?」


「確かにそうだけど、何のために夜がそんなに力をつけているかわからない」


「何のためにって、いつ何時この世界にゾンビが溢れたり、ダンジョンが出現するかわからないだろ?」

 

 いたって真剣な顔でありえないことを言ってのける夜に、黒羽は笑いが絶えられなくなった。


「フフ、ハハハハハッ」

 

「笑うことか?」


「いや、そうじゃなくて。やっぱり夜は最高だ!勉強もできて運動もできる学校のあこがれの的な夜がこんなこと真剣に考えてるなんて誰も思わないよな」

 

馬鹿にした笑いというより黒羽の笑いは、そんなことを平気で言ってしまえる実力と自由さへの憧れに近いものだった。

 

「そうだろ!やっぱり黒羽は分かってくれると思っていたよ!じゃあ、また時々特訓を頼むよ!」


「お前、剣道やってて相手に攻撃が当たらない虚しさをまた押し付ける気か!」


 もう勘弁という顔をしながら床にへばっている黒羽を後に、僕は一足先に帰宅した。


 部屋に戻ると、今日の反省を書き留めるためにカバンからノートを取り出そうとすると、僕はいつもと見慣れないものが入っていることに気が付いた。

 

 なんだこれ白い?いや透明な雫状の結晶みたいだな。どこで紛れ込んだんだろうか?

 

 しばらく考えたが綺麗なガラス細工以外の答えは出なかった。

 

「まぁ、カッコいいしいいか。それに確か…あれがあったはず!」

 

 机の奥から過去に自分のオリジナルのペンダントを作ろうとしたときに購入した金細工の工具一式があることを思い出し収納の奥の方から引っ張っり出しいじり始めた。


 「これをこうしてっと……よし完成!」

 

 僕は試行錯誤しながら雫が一番綺麗に見えるように、ネックレスを作りを楽しんだ。

 

 うん!カッコいい。我ながらいいセンスをしている。せっかく作ったことだし、この名前は何にしようかな?

 名前は大切だから……ここは慎重に、神の雫?いや、違うな。

 

 う~ん?…雫、雫……涙?しっくりくる。そうだ天使の涙!これでいこう。


 部屋の中で天使の涙を掲げ、達成感と感傷に浸っていると、やっと周囲が暗くなっていることに気が付いた。


「しまった、遊びすぎた。後悔はない、が!明日に備えて早く寝ないと!心技体すべて完璧であるために休息の確保は最優先事項なのに僕としたことが……」


 僕は急いで寝る支度を済ませ電気を消しベットに入ろうとする。

 視界の端で天使の涙が月の光を反射して赤く輝いていることに気が付いた。


「おお~!これはすごい!昼間は透明、夜は月の光で色が変わる。素晴らしい!思わぬ拾いものだったな。せっかくだからつけて寝よう」


「暗闇の中、月の光に照らされ輝く一筋の光。悪くない」


 静まり返る夜は意識を夢へといざなう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 夜は確かに自宅のベットで寝たはずだ。しかし周囲は見慣れた景色近所の公園。

その真ん中で立ち尽くしていた。

 

 「あれ?ここは公園?確かさっきまで寝てたはずなのに。どうなっているんだ?」




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