第54話 私の気持ち
花火を終え、私達は再びハルの運転する車に乗り込み家路を辿っていた。
朱里が私の隣に座りたいと言い張った為、私と朱里が後部座席、大ちゃんが助手席に座り、出発前も出発後もハルと大ちゃんは何度か大きなため息を吐いていた。
これを機に少しは仲良くなれたらいいのにな、なんて思いながら朱里と談笑していると、朝からはしゃいでいたからかいつの間にか眠ってしまっていた。
「俺、振られましたよ」
微かに聞こえた大ちゃんの声で薄らと目を覚ますと、妙に体が重い。原因は何なのかと隣を見ると、朱里が私の肩に頭を乗せて眠っている。
動けなくて仕方なしにそのままでいると、「……そりゃ残念だったな」と馬鹿にしたようなハルの声が聞こえ、そのすぐ後に大ちゃんが舌打ちをしていた。
私達が眠っている間、二人で何か話していたのだろうか。
まだ眠く頭がぼんやりとしていて、二人がどんな話をしているのか上手く聞こえない。
「……あんた、いつまでそういう感じでいるわけ」
ハルに問い掛ける大ちゃんの声が、何だか怒っているみたいで心配だ。また、喧嘩しちゃうのかな。
「……うるせぇ、クソガキ」
「だっさ……」
二人して小さな声で話すから、内容がよく分からない。
でも、多分また喧嘩してるんだろうな、ということは分かる。
険悪な二人の声に、仲良くしてよと思いながら私はまた重い瞼を閉じた。
もう一度目を覚ました頃には朱里も起きていて、車は見た事のある道を通っていた。
私の目が覚めたことに気付いたハルは、ルームミラー越しに「よく寝てたな」と微笑み掛けた。
寝ている間に二人が何か話していたような気がするのに、皆いつも通りだ。夢だったのかな。
「寝てる間に大智を何処かで降ろしてやろうと思ったけど、まぁ辞めといた」
相変わらず大ちゃんにだけ厳しいハルの言葉に、大ちゃんは「あー!やだやだ!こんな大人にはなりたくないね!」と大人ぶるのも忘れて苛立ちの声を上げていた。
朱里と大ちゃんをそれぞれの家に送り届けると、車内は私とハルの二人だけになった。
大ちゃんは帰り際、
「すずめ、この人のことが嫌になったら俺に言えよ」
と変なことを言っていた。
何だかハルに私の気持ちが伝わってしまいそうな言い方……と思い焦ってハルを見たが、当の本人は「さっさと帰れ」と鬱陶しそうな目で大ちゃんに言っていたから大丈夫そうで安心した。
大ちゃんも意地が悪いな、ハルの前であんな事を言わなくてもいいのに。
そう思いながら大ちゃんの降りた助手席に座り直し、私とハルは家まであと少しの道のりを安全運転で帰っていた。
「今日は楽しかったか?」
窓に映る景色を眺めていたら、ハルが優しい声で私に問い掛けた。
「……うん」と返事を返すと、前をまっすぐ見るハルが「よかった」と微笑んだ。
信号が赤になり停車し、私の方を向いたハルは目を細めたかと思うと、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
その手は私の頬を撫で、すぐに離すと今度は頭に移動しポンポンと叩く。
まるで子供を愛でるかのようなハルの撫で方は、昔からちっとも変わらない。
私のことを幼い子供だと思っているのだろうか、そう思うと少し悲しくなった。
少し前まで、ハルに撫でられるのがあんなに好きだったのに。
ハルへの想いに気付いてからの私は酷く不安定で、酷く幼稚だ。
幼い子供に戻ったみたいで……だけど、幼い私とは明らかに違う。
今の私は、ハルを亡くなったお母さんと重ねてなんて見ない。
兄妹だからと諦めようとした想いだけど、幸せそうなはなちゃんや真剣な想いを伝えてくれた大ちゃんを見て、思った。
私は例え兄妹でも、ハルが私以外の女の人と付き合って結婚するなんて、絶対に嫌。
そんなものを見て一人感傷に浸るのは、ちゃんと胸の中にある想いが散ってからだ。
散るなら華々しく、ハルに気持ちを伝えて残酷に振られて散るんだ。
私らしく我儘に、そして素直に……!
「……ハル」
「ん?」
ハルの手が離れ車が動き出した時、私は胸に溜めた想いを吐き出した。
「……私、ハルのことが好き」
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