第33話 暖かなお節介
私が泣いているのをしばらく見つめていた大ちゃんだったが、あんまりにも私が泣くから耐えきれなくなったのか「すずめ、もう泣くな……」と自分の袖で溢れて止まない私の涙を拭き取った。
「イケメンみたいなことする……」と言うと、大ちゃんは顔を真っ赤にして「俺はイケメンだろーが!」とツッコミを入れた。
「……そうだね」と私が笑うと、大ちゃんも優しい顔で微笑んだように見えた。
そんな大ちゃんをハルみたいだと思う自分に気付き、嫌悪する。
私の涙が落ち着いたのを見計らい、大ちゃんは言い辛そうに「何があったんだよ、ハルさんと」と聞いてきた。
どんなに大ちゃんが優しくても言えるわけがない、と私がまた口を噤むと、
「……振られたのか?」
と思いもしない質問が飛んできた。
「えっ……」と驚き声を出し、大ちゃんを見ると「どうなんだよ」と冷静な表情で質問の答えを催促してくる。
「ふ……振られた……かも……?」
思わず曖昧な返事をすれば、すかさず大ちゃんは「かもぉ!?」と大きな声で復唱してきた。
「“かも”ってなんだよ!!」
変わらぬ声量で聞いてくる大ちゃんに、私は少しびっくりした。
大ちゃんの質問を一旦無視し、そもそもなんで私がハルを好きだと知ってるの?という疑問を大ちゃんにぶつけてみると、当たり前のような顔をして
「そんなの、すずめ見てたら分かるっつーの」
と答えた。
すごい、大ちゃんは本当に私をよく見ている。
自分でも最近気付いた想いなのに、と関心していると「……だから、ちゃんと話せよ。我慢なんかしないでさ」と私を気遣うように言った。
昔は嫌いだった、優しくてお節介な大ちゃん。
今はその存在がすごく暖かくて、優しくて、有り難くて、やっぱり夕日は大ちゃんを照らしているのかな、なんて気になった。
二人して屋上の真ん中に座り、事情を話すと大ちゃんは「あのハルさんに彼女ぉ?」と何故だか不思議そうな顔をして言った。
大ちゃんが“彼女がいるかもな“って言ったんじゃん、と私が返すと大ちゃんは図星を突かれたような顔に変わった。
そしてすぐ、「あの人に彼女ねぇ……」と何やら意味深に呟く。
何か知っているのかと思い聞いてみるが、大ちゃんは「べっつに〜」と言ってそっぽを向いてしまった。
意地悪な大ちゃんに少しむっとしていると、それに気付いたのかまたこっちを向いて「……もう本人に聞けば?その女が誰だったのか」と元も子もないことを言った。
「ただの妹がそんなの聞けるわけないじゃん……」
と私が自信のない返事をすると、大ちゃんは馬鹿にしたように笑った。
「ただの妹ぉ?すずめ馬鹿だな〜!!」
明らかに私を馬鹿にしている言い方。
失礼な、と頬を膨らませ大ちゃんを睨む。
私が睨んでいることに気付いているのに、変わらずヘラヘラとして真面目に聞いてくれない大ちゃんだったが、一頻(ひとしき)り馬鹿にしたあと
「少なくとも、あの人にとってすずめはただの妹ではないだろ」
と、急に優しい顔で言った。
「俺には分かる」
そう断言する大ちゃんに何故そう思うのか聞きたかったけど、なんだか少し寂しげに見えて聞けなかった。
ハルにとって私がただの妹じゃないなら、私はハルにどう思われてるんだろう。
なぜハルは私に嘘を吐くんだろう。
疑問は尽きなかったけど、大ちゃんに話したおかげか随分と心は軽かった。
「……大ちゃんは、私のこと変だと思わないの?」
気持ちが落ち着き、一番気になっていた質問を投げかける。
最初から、当たり前のように私のハルへの気持ちを受け入れていて不思議だった。
私でも知らなかった私の気持ちを知っていた理由とか、血は繋がってないけど兄であるハルに恋をしてることをどう思っているのかとか、大ちゃんに聞きたいことは山ほどある。
私が見つめていると、大ちゃんは困ったように笑って「変じゃねーよ」と答えた。
変な顔で言った大ちゃんを本当かどうか疑っていると、「まぁ、あんま人に言えることじゃねーだろうけど」と大きく息を吐いて付け加えた。
「……すずめは昔っから、ハルさんのことしか見てないもんな?」
さっきまでの私みたいに諦めたように笑う大ちゃんは、大ちゃんらしくなくて少し変だった。
「ずっと知ってたってこと?いつから?」
私が頭に浮かんだ疑問をテンポよく聞くと、大ちゃんは頬を染めて「言ってやんねー!」とまたそっぽを向いてしまった。
どうしても教えて欲しくて、「ねぇ大ちゃん!いつからなの?」とそっぽを向く大ちゃんに顔を近付けて何度も聞けば、「執拗い!!」と叱られてしまった。
大ちゃんだっていつも執拗いくせに。
夕日が沈んだ帰り道、大ちゃんが「危ないから」と私を家まで送ってくれることになった。
男の子だなぁと思いながら並んで歩いていると、大ちゃんは私を見ずに「あんま悩むなよ。すずめがハルさんのことを好きとか、今更だし」と無愛想ながらも優しい言葉をくれた。
ツンとしてるのに優しい大ちゃんがなんだか面白くて、笑い声を漏らしながらお礼を言えば「何笑ってんだよ!」と怒られた。
「……私ね、昔は大ちゃんのこと苦手だったんだ」
「…………はぁ!?」
今はね、大好きだよ。大ちゃん。
隣で執拗く「なんで!?」と聞いてくる大ちゃんの声を右から左に流しながら、心の中でそう呟いた。
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