第17話 塗り替えられた記憶
真山と恋人になってから、1ヶ月が経った。
夏休みが明けてすぐ、航太に付き合ったことを伝えると「俺のおかげだなぁ?」と恩着せがましく真山に言っていた。なんだか見覚えのある光景だったが、真山は俺と違いちゃんと感謝していた。
一体何がこいつのおかげなのか分からないが。
付き合ってからも俺のすずへの優先度は今まで通りで、幼稚園の送迎も相変わらずだ。
あの日の宣言通り、真山は俺がどんなにすずを優先しても怒ったり不満を言ったりはしなかった。
寧ろ、2人ですずを迎えに行ったり、約束していた日にすずが風邪をひいて会えないと言えば「お見舞いに行く」と家に来てくれたり、すごく気遣ってくれている。
そんな真山に、俺はかなり甘えてしまっていた。
さすがに甘えてばかりでは良くないと思い、すずを母に預けて真山との時間を作ろうとも試みたが、イマイチ上手くいかない。
真山もそんな俺の心中を察してか、いつも「気にしないで!私がしたいだけだから」と声をかけてくれる。
こんなことでいいのだろうか。真山は傷ついていないだろうか。
真山の優しさから、罪悪感は少しずつ増していった。
季節は秋が訪れようとしていた。
すずは来年小学校への入学を控えており、最近は買ってもらったばかりのランドセルを毎日背負っては俺に見せびらかしてくる。
歳を重ねる毎に、昔と違い子供らしくなってきているすず。
最近は泣くこともほとんど無くなり、普通の子供と同じように会話もできる。
成長を感じ嬉しいのと同時に、小さな違和感も感じていた。
「ママ、わたしおいてどっかいっちゃった」
ある夜、寝かしつけていると突然すずが言った。
今まで1度もすずが母親の話を出したことは無かったのに、と驚きどういうことかと聞くと、
「ママにすてられちゃった」
と眠いのか瞼を擦りながら答える。
否定しようとしたが、すぐに眠ってしまって何も言えなかった。
何故そんな風に思ったのかと疑問に思い考えると、ふと昔航太が言った言葉を思い出した。
『誕生日ケーキを買った帰りにお母さんが亡くなったって、3歳の子供がちゃんと理解してるわけないだろ?』
もしかしたら、昔から“母親の死“を理解しておらず、急にいなくなった母親に対して“自分を捨てた”と解釈していたのかもしれない。
すずが母親について何も語らなかったのは母親に“嫌われた”と思っていたから、なのだろうか。
早く否定して「母親はすずを好きだったはずだ」と言ってやるべきなのに、すずはあれ以降母親の話を口に出すことがなく、言うことは出来なかった。
そして後に、俺はこのことを一生後悔することになる。
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