第14話 華の声ー①ー
井上くんの最初の印象は、クールで人嫌い。
いつも一人でいて、同性とは話すけど女の子には返事も碌に返さない。何だか冷たい人、だった。
私も入学してしばらくは話したことなんてなかった。
だけど、そんなクールな雰囲気と整った顔立ちで女の子たちはよく噂していた。
てっきり人嫌いだと思っていたら、カラオケでたまたま隣に座ると、井上くんが携帯で幼い女の子の写真を眺めているのが視界に映った。
誰なんだろう、と顔を見てみるととても優しい顔で微かに笑っていて、全然人嫌いなんかじゃないって気付いた。
こんな風に笑うんだ、と驚いた。よく一緒にいる柳くんにもこんな風に笑っているのを見たことがなかったから。
つい話しかけてみたら、想像していたような冷たい人なんかじゃなかった。
話し方はぶっきらぼうだけど、本当に妹さんのことが好きなんだと伝わる声。
だから、妹さんとのことを聞いて「確かに似てないかも」なんて酷い事を言ってしまったことを、すごく後悔した。
事情を知らなかったとはいえ自分が許せなくて、部屋から出て行った井上くんをすぐに追いかけて謝った。
井上くんは優しくて、あっさりと許してくれた。
それ以降、井上くんは他の女の子とは話さないのに、私には自分から話しかけてくれるようになった。
同時に柳くんとも仲良くなって、男の子の友達なんて出来たことがなかった私は「高校生活楽しいな!」なんて楽観視してた。
だけど、女の子たちからはどんどん距離を置かれるようになった。
皆がかっこいいと思っている井上くんの唯一の女友達、と周りが私を敵視しているかのように。
そんなつもりじゃなかったから少し悲しかったけど、気にしてないフリをしてた。
そしてあの日、ホームルームを終え「すずの迎えに行く」と急いで教室を出て行った井上くんを見届けて、私は日直で担任の先生に日誌を渡して帰ろうとしていた。
日誌を渡し終え、靴箱まで行くのに教室の前を通ろうとすると、さっき帰ったはずの井上くんが立っていた。
忘れ物でもしたのかな、と思っていたら教室から女の子たちの笑い声が聞こえて、「気まずくて入れないのかな?」と心の中で微笑していると
「真山さんだってさぁ、絶対ハルくんに気があるじゃん?」
という声が聞こえた。
突然自分の名前が出てきて、何の噂話かと思い耳を澄ます。
「そもそも真山さんってあざといじゃん?カラオケの時も1人だけいい顔してさぁ、最初からハルくん狙いだったんじゃない?」
楽しそうに笑う女の子たちは、私の噂話をしていたようだった。
私が井上くんのことを好きで好感度が上がるような行動を取っている、と。
別に裏で何を言われていてもいいけれど、井上くんに聞かれてしまったことがなんだか少し恥ずかしい。
話を聞いている井上くんの後ろ姿を見て、今何を思って聞いているのか、そっちの方が怖かった。
これ以上聞いて欲しくなくて声をかけると、井上くんは振り向いて私の顔を真っ直ぐ見た。
「……何か忘れ物?」
いつも通りを装って問いかけると、井上くんはなんだか辛そうな顔をした。
どうして井上くんが辛そうなんだろう、と思っていると「これでハルくんがあの子に落ちたら、趣味悪すぎて引くんだけど〜!!」という声と共に笑い声が響いた。
恥ずかしくて上手く笑えなくて、井上くんから顔を逸らした。
少ししてもう一度前を向くと、さっきまで目の前にいた井上くんがいなくて、代わりに教室から
「別にあんたたちが何言おうと勝手だけど」
と井上くんの声がした。
覗いてみると、女の子たちの前で堂々と立っている井上くんがいた。
「俺はあんたたちより、真山の方が遥かに好きだから」
ーー井上くんのその言葉を聞いて、私は一瞬で女の子たちの言っていた通りの女になってしまった。
落ちたのは、私だった。
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