第28話 花見
連休合間の平日、ドライブに行く。国立大学だから本当は大学はやっているのだが、先生たちがいいというのだから、休ませてもらう。
集合は近所のコンビニだ。時間までにみんな集まった。神崎さんが颯爽と黄色い愛車で現れたので乗り込み出発する。
席順については、恩田さんが強く主張した。
「唐沢くんに岩田くんは後部座席ね。私うしろの真ん中!」
女子3・男子2で、神崎さんが運転するからどうやっても女子一人は男子とくっついて座ることになる。あまり親しくもないし、いいのだろうか。
「両手に花、いや両手に男子だー!」
面白い人である。
出発してしばらくしたところで神崎さんが聞いた。
「真美ちゃん、後ろ狭いでしょ」
「うん、大丈夫。っていうか、逆ハーレムだよ!」
「なにそれ?」
「理系が男だらけだからって、女がもてるわけじゃないんだよ。結局学科の男たちは外で彼女作ってる。すでに札幌では私の性格はバレてる。だから東京の人たちにもてるしかない」
今回のドライブの目的は、富良野での花見だ。北国の北海道では、四月末から五月はじめが桜の見頃らしい。東京からは一月も春が遅いことになるが、住んでみた感覚はたしかにそうだ。
高速道路に乗ると、景色が広がった。遠くまでよく見える。道路はまっすぐに旭川方面に伸び、遠方には山も見える。
「まみちゃん、あの山何かな?」
緒方さんが聞くが恩田さんの答えは、
「ごめん、知らない」
だった。僕は、
「十勝岳とか、大雪山とかじゃないかな」
と言ってみた。緒方さんは、
「修二くんよく知ってるね」
と言うので正直に、
「楽しみすぎて、昨日ネットで地図見てた」
と言ったら、神崎さんが笑って言う。
「そうか、十勝岳か、火山よね」
僕はふと気づいて言った。
「北海道って火山多いよね」
神崎さんが応じる。
「有珠山とか昭和新山とか有名よね」
緒方さんは、
「もしかして北海道の山って全部火山?」
などと適当なことを言う。明は、
「さすがにそれはないっしょ。日高は褶曲山脈だよ」
と博識なところを見せたが、
「もう北海道弁?」
とみんなに笑われた。
しばらく進んだところで明は、
「温泉無いかな?」
というので、
「あるんじゃない?」
と答えておいた。
緒方さんはわざわざ助手席から振り向いて、
「行ってもいいけど、のぞいちゃだめだよ」
というのだが、それに答えたのは恩田さんだった。
「だめなの?」
神崎さんは大笑いしてしまい、自動車の姿勢がちょっと乱れた。
二時間ほどのドライブで目的地に着いた。まだ時間が早いのか人も少ない。神崎さんが横に来たので、
「ちょっと寒いね」
と言ったら、
「うん、関東だと三月の終わりぐらいって感じかな」
「そうだね、本当に桜の季節って感じだね」
駐車場から少し歩くと、五分咲きの桜が見えてきた。心が浮き立つのは桜の効果だけではないのは自分でもわかる。
広場にシートを広げて座る。神崎さんが呟く。
「今年、桜見れるって思ってなかった」
全くそのとおりだと思う。
「よかったね。私もみんなと一緒に見れてよかった」
恩田さんが言った。
僕は寝転んで空と桜を一緒に見ることにした。
「いい気持ちだよ」
神崎さんも寝転んだ。
しばらくすると、スウスウと寝息が聞こえてきた。神崎さんは寝てしまったらしい。僕はそっと起き上がって神崎さんの寝顔を見入ってしまった。運転で疲れたのだろうか。
神崎さんの顔をみていたら、肩をツンツンと突っつかれた。
「修二くんのスケベ」
緒方さんだった。言い訳する暇も与えず緒方さんは、
「聖女様、起きてよ。今日は寝るの早いよ。飲んでないのに」
言い訳を兼ねて、僕は言った。
「運転、大変だったかな」
起きてきた神崎さんが返事する。
「そんなことないよ、私運転好きだし」
明が聞く。
「そういえばさ、札幌に来たときから思ってたんだけど、聖女様って運転上手いよね」
僕も言う。
「うまいっていうか、メリハリがあるというか」
「実は二月にこの車買ってもらって、お父さんに結構鍛えられた。箱根とか運転させられた」
「なるほどー」
お腹が空いてきたので昼食にした。おにぎりとかおかずとかみんなで持ち寄った。神崎さんの淹れてきたほうじ茶がおいしかった。
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