第24話 新生活
部屋の明るさに目が覚めた。カーテンは今日着くはずだ。その他布団など大物類は全部今日到着予定だから、あまり外には出れない。東京から送った書籍類も今日着くはずだ。時間が早いうちにコインランドリーに走り、コンビニで朝・昼の食事を買っておく。ついでにインスタントコーヒーも買った。二晩続けて明を泊め、買っていたのは酒盛り用と菓子パンなど簡単に食べられるものばかりだったからだ。
コンビニで買った朝食をとりあえず家に置いて、コインランドリーに戻り洗濯物を回収する。天気がいいから乾燥機代をケチった。
部屋の中に洗濯物を干すと、結構狭い。その洗濯物を見上げながら朝食用のおにぎりを食べる。昨日の夕食もそうだったが、一人で食べる食事はまだ慣れない。
朝食を終え、窓の外を見ながら陽光で温まっていると荷物が来た。書籍類だった。書籍だから一つ一つの箱は重い。しかし一つだけ少し軽かった。変だなと思って考えると、東京で出した数より箱が一つ多い。それを開けると中は書籍ではなく、レトルトとか缶詰とか簡単に食べられる食品が詰まっていた。しかも自分では買わないような高価なものだらけだ。
母だろう。
涙をこらえながらSNSで「荷物着いた。ありがとう」と送ったら、すぐに「がんばれ」と母から返ってきた。
送られてきた食品を流しの下に移し、書籍類の箱も開ける。そのうち買い込んだ大荷物が来てしまうから、空き箱などどんどん潰して場所を確保しておかないといけない。感傷にひたっているひまなどないのだ。
ほとんどの書籍は、物理と数学だ。統計力学・量子力学といった学部レベルのものが多いが、いつ基本に返って勉強し直さなければならないかわからない。そんなときは手になじんだものがいい。マンガは獣医学生とシベリアンハスキーのものだけ持ってきた。同じ北海道の大学が舞台だったからだ。高校生の時に買ったものだが、どこかで北海道の大学に興味があったのだろう。
つい手にとって読んでしまう。
三巻めに入ったところで気がついた。片付けないといけない。
あっという間に昼になってしまった。朝コンビニで買っておいたカップ麺にお湯を注ぐ。あまりに質素な食事に、こんなんじゃ行けないなと思う。今夜はちゃんと夕食を作ろう。
テレビはないから、ノートパソコンを開いて動画サイトで垂れ流しのニュースを見ながらカップ麺を食べる。パソコンは大学入学時に買ったものだから、もうかなりくたびれている。新生活にはふさわしくない痛み方だし、論文を書くにはともかくデータ処理には力不足だ。新しい研究室でしばらく生活して、必要なスペックのものに回直さないといけないだろう。
食事が終わるとやることがなくなった。神崎さんはなにしてるかなと思う。スマホをとりあげSNSを開くと昨日の「また大学でね」との文字が目に入る。しかたないので久しぶりに教科書を開く。窓際に寄って背中に陽光を浴びながら教科書を読んでいると、眠気が襲ってきた。
玄関のチャイムの音で目を覚ます。家電に布団だろう。急いでドアを開く。
冷蔵庫など大物はセッティングしてもらうので、狭い部屋が更に狭くなり身の置き場に困る。戸惑っているうちに、手慣れた配達員さんのおかげで作業は終わった。
配達の人が帰ると、また一人になってしまった。呆然としてしまいそうになるが、炊飯器などを箱から出したり布団を広げたりでそれなりに時間がかかってしまった。
夕食はスーパーで買ってきた豚肉を焼く。味付けがしてあるから焼くだけでいい。明日からの平日は昼・夜と学食でだろう。研究室の人たちと食べることが多いだろうが、神崎さんたちと食べることもあるだろう。これからの研究生活の期待と不安がごちゃごちゃになり、自分で作った料理の味などわからない。
明をはじめ、緒方さんも神崎さんも同じような気持ちなのだろうか。不思議と今日はグループのSNSが伸びない。みんな無言で頑張っているかと思うと、僕の気持ちも少し楽になった。
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