第16話 合コン
上高地で開催された「実験物理 若手の学校」から帰ると秋もたけなわ、卒業研究もたけなわである。進学組もほぼ進路が決まり、就活組もだいたい決着がついた。したがって教授陣が気合を入れてくる。四年生自身もやはり結果を出したいから力も入る。
力が入るとその結果としてとりあえず、四年生たちの服装が乱れてくる。正確に言えば汚くなってくる。女子の場合、
「◯◯さんがすっぴんできた」
とか後輩たちに噂を流される。もちろん男子もビシッと決めていた髪型がナチュラルヘアーになったりするのもこの季節だ。
そんな日々を過ごしていたある日、僕は明と学食で昼食を食べていた。午前に残り少ない講義に一緒に出ていたからである。実験に追われている身からしたら、でなければいけない講義はただの邪魔である。とは言うものの違う研究室の同期にも会えるし、肉体的にも休めるので登録していた講義はずるしないで出ることにしていた。
「おい修二、その後聖女様たちと連絡取ったか?」
「いや、とってない」
「いいのか?」
「よくないけど、あんまりがっついてもな」
「そうともいえるか」
そんな会話をしていると、声をかけられた。
「明に修二、いたいた」
健太である。
「おう健太、久しぶり」
と返すと、健太が座って話し始めた。
「おい、喜べ。合コンだ」
明が聞く。
「今度はどこと?」
「今度も扶桑女子大だ」
「ということは優花ちゃんがらみか?」
「うむ、修二、聖女様も来るぞ」
思わず顔がゆるむ。
「あと、国立女子大から二人来て女子合計五人だ。明と修二はご指名だ。だから男子をあと二名補充だ」
この男子の補充は難航した。
希望者はもちろん多い。国立女子大と言えば本郷キャンパスからは近所だし、国内の女子大の頂点に君臨する大学である。扶桑女子大はお嬢様系女子大で全国にその名前を轟かせている。
しかし、日程の調整が難しい。
とにかく自分を含め、実験系の人間は先の予定が見えにくい。さすがに先生の思いつきで土日に急遽実験が入り込むなんてことはないが、トラブルはどうしようもない。物理だけでなく健太にもたのんで化学やその他の学科の連中にも声をかけた。かけまくった。
結局物理科では調整がつかず、化学科から柏木真一、建築科から加山悠人の二人が参加となった。もちろんふたりとも教養課程の同期である。
結局十一月末、都心で合コンとなった。合コン当日の昼、男子メンバー五人は帝大の学食で集まった。新規参加の二名が女子の様子をどうしても知りたいと言ってきたからだ。
明がスマホで若手の学校での写真を見せながら説明する。
「あのな、まずこの木下さんは健太の彼女だ」
「なるほど」
「あと、この人聖女様とショートカットの緒方さんは来年札幌で俺と修二と一緒なんだから、わかっているよな」
明の言い方はどうかと思うが、そのとおりだと思う。
「聖女様って、なんだ?」
真一がもっともな疑問をはさむ。
「ああ、神崎杏さん、高校の学祭の演劇で聖女様役やったからだって」
明が答える。
「そんなことよりお前ら、たしかこの人が佐倉茜さん、で、こっちが伊東ひちろさん、ふたりとも国立女子大のM1だ」
「え~M1?」
「うるさい、お姉様もいいだろう」
「そ、そうか」
今回の合コンは、英国パブ風のお店になった。佐倉さんのリクエストらしい。合コン会場最寄駅の出口で集合した。とりあえず駅で集合し、実験などの都合で遅れる場合は現地で合流という約束だったが、時間ぴったりに東京勢は揃ってしまった。扶桑女子大の三人は、やっぱり実験の都合で少し遅れるとの連絡が木下さんから入っていた。
「とりあえず東京勢はそろったので、お店へ行こうかと思うのですが……」
前回同様幹事役の健太がとりしきる。
「さきに自己紹介を。僕は村岡健太です。帝大四年で化学です」
続いて新規参加の男子二名が自己紹介し、国立女子大の二人も続いた。
お店はちょっと薄暗い照明で、カウンターにビールのサーバーがある。予約していたことを健太が店員さんに伝えると、奥の席に案内された。ソファがいい感じに柔らかい。
「優花から連絡きてるんだけど、先に料理と飲物注文しておいてだって」
「それって、料理が来る頃ちょうど到着するってことか?」
僕は健太に確認した。
「そういうことだろな。待たせても悪いと思ってるんじゃない?」
ということで、メニューを女性陣に回す。佐倉さんは、
「やっぱりフィッシュアンドチップスよね」
と言う。
「じゃ、飲み物はどうします?」
悠人が聞く。
「やっぱりビター?」
佐倉さんが即答するので、健太が注文した。
なお、フィッシュアンドチップスはイギリスの屋台などでよく売られていて、白身魚のフライとポテトフライのセットである。ビターはビールの仲間らしい。
すぐにビターが来たので乾杯した。あまり冷たくなく、泡も少ない。しかし名前通り、かなり苦い。しばらく七人でその感想を言っていると、扶桑の人たちが来た。
本当のことを言えば、僕の目には神崎さんしか見えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます