第12話 北海道最終日
北海道最終日になってしまった。明日の今頃は、あのくそ暑い東京かと思うとうんざりする。大きな荷物は宅配便にして、手荷物は今日一日必要なものだけにする。明が僕のその荷造りをみて、
「そうすりゃいいのか」
と言って真似をする。頭のいい明が僕の真似をするとは珍しい。
「よーし、今日も聖女様のストーカーするぞー」
明の表現はアレだが、僕の気持ちも同じである。神崎さんの止まるホテルの玄関へむかう。一応SNSで迎えに行くと伝える。
神崎さんも手荷物が少ない。僕らと同様、ギリギリまで観光するつもりらしい。
「すすきの、どうだった」
神崎さんが聞くので明が答える。
「どうもこうも、ふつうに観光だよ」
僕も答える。
「少しお酒をのんで、しめにラーメンかな」
「!」
一呼吸置いて神崎さんが叫ぶ。
「ラーメン行く! ラーメン!」
僕は流石にとめた。
「まだ早いでしょう」
「じゃあ大通公園行こう」
神崎さんはしょんぼりと歩く。
大通公園はやっぱり広い。緑が深いがなんとなく盛りが過ぎつつある感じもする。北海道の秋は早いのだろう。屋台が見える。
「トウキビ食べる!」
神崎さんはそう言って屋台に走っていった。
「聖女様元気取り戻したな」
明がつぶやく。
戻ってきた神崎さんは、僕と明にも焼きトウモロコシを渡す。北海道ではトウモロコシをトウキビというのだ。
「おお、ありがとう」
財布を出そうとしていると、
「今回はいろいろお世話になっているから、お礼。安いけどね」
と神崎さんが言うので素直に受け取る。
ソフトクリームを売っている。メロン味がイチオシらしい。
「ソフト食べる!」
また神崎さんが走っていきそうなので、
「今度は僕が買ってくるよ」
と言って僕は走った。
メロンの酸味が暑い日差しに美味しい。気をつけないと手が汚れそうになる。明が手に垂らしてしまい、神崎さんと笑う。
お昼はラーメンを食べに行った。昨日と同じ店に行く。神崎さんは、
「別の店のほうが良くない?」
というのだが、僕は、
「美味しかったと思うんだけど、酔ってたからきちんと食べたい」
と返した。笑われた。
昼食後神崎さんが、
「私、もう一度大学行ってくる」
等と言いだした。
「あんまり時間無いよ」
僕は言った。
「さんざんいたじゃん」
明も言う。
しかし神崎さんは、困ったような顔をしている。きっとどうしても行きたい理由があるらしい。
「わかった、行こう」
僕は決断した。明は納得できないでいたが、
「いや、行こう、行こう」
僕は重ねて言った。
すると神崎さんは
「あんたら私に付き合ってばっかりでしょう」
と遠慮するので僕は強く言ってしまった。
「俺は付き合いたいんだよ」
神崎さんは僕の顔をしっかりと見た。僕は言葉選びを失敗してしまった。これでは口説いているみたいではないか。明が助けてくれた。
「わかった、聖女様、行こう」
明が地下鉄の駅へと歩き始めた。
大学では神崎さんは初日に行ったカフェの方に向かう。そういえば売店があった。気になる土産物でもあるのだろう。
神崎さんは土産物を色々見ている。緑のTシャツをとりあげ3枚もとっている。ご両親あてなのか、緒方さんとか木下さんとかに買うつもりなのか。
いくつか買うものを手にとっていたが、白い小鳥のぬいぐるみの前で動きが停まってしまった。あれはシマエナガなのだろう。何回も手に取ったり棚に戻したりしている。
結局ぬいぐるみを棚に戻し、神崎さんはレジに向かった。向かう途中で一回振り返り、くやしそうな表情である。
僕はそのぬいぐるみの棚に向かった。
「手にしていたのは、これかな?」
独り言がでてしまう。あんなに迷うなら、買ったほうがいい。なんなら僕が買って渡そう。神崎さんが手に取っていたぬいぐるみをとり、レジで購入した。
売店を出たら神崎さんが土産を買った僕たちをみてニコッと笑った。
「神崎さん、これ」
今買ったぬいぐるみの包を押し付ける。神崎さんは袋の中を見て、
「え、買ってくれたの?」
と驚きながら、バッグから財布を出した。僕としてはお金などいらないのだが、どう言えばいいのかわからない。
「もらってやってよ」
明が助けてくれた。
札幌駅から電車で千歳に向かう。車窓を北海道の景色が流れていく。僕も神崎さんも、来年はこの景色の中で生きていけるのだろうか。神崎さんはともかく、僕が受かっているかどうかはわからない。
神崎さんも景色をみつめている。両腕でさっきのぬいぐるみを抱きしめている。
神崎さんが僕の視線に気づいた。
僕は逃げることなく、笑い返す。
僕と明の飛行機は、神崎さんより三十分ほど先だ。しかたなく先に搭乗ゲートに向かう。振り返ると神崎さんが手を振って見送ってくれる。
僕も小さく手を振った。
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