第13話 泣き下手と怪しい?2人組


 やってきたのは怪しい2人組だった。

 色違いのハンチング帽。

 お揃いのサングラス。

 色違いのトレンチコート――どこに隠してた、その格好。

 変装しているつもりなのだろうけど、俺には正体がモロバレである。


 まず、ちらりと見える星乃台高校の制服。

 そして手にしたアイテム。

 ひとりはミニサイズのダンベルを持っているし、もうひとりは手縫いらしい枕を持っている。

 ああして『好きなアイテム』を持ち歩くときは、だいたい気持ちを落ち着かせるためと相場が決まっている。


 ……というか、あの姿のままアルテナに来たのか?

 通報されてないよね?


 2人組は辺りをうかがうと、コソコソと店内に侵入する。

 正面カウンターのマスターがにこやかに言った。


「いらっしゃいませ。紅愛さん。白愛さん」

「速攻バレてる!?」

「マスターさん。しー、です。しー。現在我々は、超極秘重要ミッションストーキング中なのです」


 尾行(直訳)である。

 マスターは動じない。


「勝剛さんなら、奥のテーブル席にいらっしゃいますよ。朝仲さんと一緒です」

「なぁーんだ。薫さんと一緒だったのかあ。心配して損した」

「いえ姉様。油断はできません。なにせ相手はあの朝仲薫。年齢性別不詳な魔性の存在です。父様の前で性転換するなど朝飯前――」

「聞こえてるよ。2人とも」


 朝仲さんが声を上げる。

 怪しい2人組――もとい、紅愛と白愛はその場でぴょんと跳び上がった。

 俺は朝仲さんとともに双子姉妹の元へ行く。とりあえずダンベルと枕を没収。双子は「あー!」と口を揃えていた。

 朝仲さんが言う。


「今をときめくアイドルと女優が、そんな面白罰ゲームで遊んでてどうするの。バラエティー番組の仕事はしばらくないよ」

「面白罰ゲームって、ひどいよ! その台詞は白愛に言ってってば! 言い出しっぺは白愛なんだから!」


 紅愛は頬を膨らませると、妹を指差した。


「もー、白愛の口車に乗って変なコスプレするんじゃなかったよ!」

「コスプレとは何ですか、コスプレとは。これは由緒正しき尾行の正装。我が校のコスプレ部渾身の力作ではないですか」

まごうことなきコスプレじゃん」

「ここに来るまで誰にもバレなかったのです。私への責任転嫁は心外です」

「……紅愛、白愛。本当にバレなかったんだろうな?」


 思わず俺がつぶやくと、2人はサッと明後日の方向を向いた。

 こんなことを繰り返しているのに、学校からお叱りの呼び出しがないのが逆に恐ろしい。

 そういえば、友達に「カオが利く子がいる」とか言っていたような……。

 大丈夫か、星乃台高校。

 芸能界以上の魔窟じゃない?


「白愛が絡むと、いつも変なノリになっちゃうんだよね。学校でも散々付き合わされたけど」

「事実だとしたら遺憾ですね」

「いや他人事みたいに言わないでよ。白愛、クラスの友達からも散々ツッコまれてるんでしょ? 聞いたよ、あたし」

「ですが、姉様だってこの格好が結構馴染んでいました。むしろノリノリでしたよね? 私にはわかるのです」

「う……」

「『広く浅く』の交友関係を保つ姉様には、たまにはこのくらいのおふざけは必要です。姉様こそ、そのご自覚があるのでしょう?」

「いつもながら知ったような口を――っていうか、自分からおふざけって言っちゃうのね……」

「事実ですから」


 トレンチコートを脱いで制服姿に戻った紅愛がため息をついた。


 紅愛がツッコミを入れ、白愛が柳に風と受け流す。

 いつものことだが、双子姉妹の軽妙なやり取りには育ての親ながら感心する。


「ところでパパ、どうして薫さんと一緒なの? ジムを早退までしてさ」

「お前たちの次の仕事について、契約を確認していたんだ。保護者としてな。……それより紅愛。なぜ俺が職場を早抜けしたことを知ってるんだ? しかも、『アルテナ』に来ることまで知ってるなんて」

「トップアイドルの伴侶は細かいことを気にしちゃダメだよ、パパ」

「誰が伴侶か。隣でうんうん頷いてる白愛、お前もだ」

「いえ。私は単に、天からの直感を信じて行動したのみです。それがたまたま姉様と行動を共にすることになり、たまたま父様の早退行動とどんぴしゃで重なり、たまたま行きつけの喫茶店が怪しいと啓示を受けただけです。むん」

「……お前の場合、半分くらい真実に聞こえるのが恐ろしいよ」


 マスターから譲ってもらった厚手の紙袋に服やらダンベルやら枕やらを詰め込む俺。

 そんな俺の肩を朝仲さんが軽く叩いた。


「この子たち、よくスマホを見て勝剛さんの行動をチェックしてるみたいですから、何か仕込まれているんですよきっと」

「……ほう?」

「ちょっと、薫さん!?」

「それは裏切りというものですよ!? お墓まで持っていく秘密だと誓ってくれたではないですか!?」

「……朝仲さん? まさか前から知ってたんですか?」


 今度は敏腕マネージャーの方が視線を逸らす。

「相変わらず楽しそうですなあ」とマスターがのんびりと言った。


 ふと、紅愛が眉を下げる。


「パパ、この時間は職場でしょ? いきなり早退してたから、何かあったのかと心配になって……」

「さっきも説明したとおり、朝仲さんと打ち合わせしていただけだよ」

「父様の場合、誤解で警察沙汰になる可能性もありますし」


 とっさに反論できない自分が悲しい。


 朝仲さんが書類の入った荷物を肩にかけた。


「そろそろぼくは戻ります。紅愛、白愛。せっかくだから、勝剛さんに甘えてきなさいな。今なら思いっきり甘えさせてくれるはずだよ」

「え!? ホント!?」

「ええ。さっき、勝剛さん自身からこの耳で聞いたよ。ちゃんと君たちに向き合うってね」

「さすが超絶有能マネージャーです。本当にさすがです」


 紅愛と白愛が喜ぶ。

 俺はため息をついた。


「いいんですか? そんなに軽く許可を出して」

「無理に追い返して、またストーキングされるよりマシです。頼みましたよ、勝剛さん」


 そう言うと朝仲さんはさっさと『アルテナ』を出て行った。

 ちなみに、いつの間にかクラマトはしっかり飲み干していた。


「じゃあ、俺たちも出るか」


 紅愛たちに声をかけたところで、マスターに呼び止められる。


「700円です。勝剛さん」

おごりじゃないんだ……」

「説教費だとおっしゃっていましたよ、朝仲さんは」


 ふんわかと包み込むような優しい笑みで代金を請求するマスターに、俺はため息をつきながら財布を取り出した。












【13話あとがき】

勝剛たちの前に現れたのは変装した双子姉妹というお話でした。

「うん、知ってた」って感じですよね?

「甘えていいよ」と言われた姉妹がどうアプローチするのか?

それは次のエピソードで。

双子、よく無事に喫茶店まで来られたよなと思って頂けたら(頂けなくても)……

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