第10話 泣き下手姉妹と愉快な生徒会
放課後。
紅愛、白愛の双子姉妹は生徒会室へ向かった。
2人は1年生のときからずっと、生徒会に所属している。
無用の混乱を避けるためだ。
方や人気アイドル、方や新進気鋭の若手女優。
入学当時、何としても彼女らに入部して貰おうと様々な部活が勧誘をしかけまくって、収拾が付かなくなった。
結果、学内の秩序を守るため双子姉妹は生徒会預かりとなった――というわけである。
ちなみに、昼食を生徒会室で取るのも同じ理由だ。
今年の生徒会メンバーは、例年に比べても一癖も二癖もある精鋭であった。
「こんにちはー」
「紅愛さま、白愛さまッ!! ようこそ、いらっしゃいましたッ!!」
紅愛が生徒会室の扉を開けるなり、音速で出迎えたのはおかっぱ頭の小柄な少女。
2年生の
彼女は、涼風姉妹の強烈なシンパだった。
「2時間46分ぶりの再会、アズサは一日千秋の思いで待ち焦がれておりましたッ!」
「アズサちゃん、こんにちはー。相変わらず元気いっぱいでカワイイねぇ」
「はぅっ!!」
アイドルスマイルでにこやかに応じた紅愛。
幸せそうな顔でその場に膝を突くアズサを、双子姉妹は手際よく椅子に座らせる。
慣れた動きだった。
すると、書類整理をしていた別の女子生徒が会釈をして言った。
「おふたりとも、いつもすみません……」
「気にしなくていいよー、
紅愛が応え、白愛がヒラヒラと手を振る。
長い髪をシンプルなひとつ結びにした、この女子生徒。
彼女の名前は
1年生の生徒会書記である。
まだ入学して間もないのに、ただでさえ競争率激高の生徒会で役職を得ているのは、それだけ真理佳が優秀な証だ。
それともうひとつ、彼女が生徒会に入れた理由がある。
「一ノ瀬さん、私が書類整理を手伝いましょう」
白愛が胸を張って提案すると、真理佳はじろりと目を細める。
「白愛先輩は文字列を睡眠薬代わりにするのでダメです」
「……。ではせめて、記入済み書類をしまう作業くらいは」
「ちょうどいい高さ硬さの枕だーとか言っちゃうのでダメです」
涼風姉妹を前にしても気後れせずにツッコむ真面目な常識人。
それが真理佳が生徒会に採用された理由だった。
紅愛と白愛がスススーッと真理佳の隣に近づく。
そして両サイドから彼女の頭をナデナデし始めた。
この生真面目でちょっと愛想のない後輩を、双子姉妹はとても可愛がっているのだ。
「真理佳ちゃんはいつも真面目で偉いねー。ウチのお父さんみたい」
「裏表なく堂々と私たちに接してくれるのは好ましいです。ちょっと泣きそう」
「や、やめてください。先輩方。じゃないと」
ちらりと真理佳が向かいの席を見る。
そこでは、机の上に顎を乗せたアズサが恨めしげに見つめていた。
「紅愛さまと白愛さまに撫でて貰えるなんて……羨ましい。いえ、恨めしい。くっ……心の臓に効きますわ」
「……ああいう風に蓬莱先輩がヘソを曲げちゃうので。いったん機嫌を損ねると面倒くさいんですから」
真理佳がため息をつきながら言う。
「蓬莱先輩。いくらいじけて機嫌が悪いからって、他の生徒たちに過剰な権力を振りかざさないでくださいね? トラウマになった人もいるんですから。まあ、中には自業自得な方がいるのは確かですけど」
「わかってますわよ。3日くらい悪夢にうなされる程度で我慢しますわ」
不承不承といった様子でとんでもない台詞を吐くアズサ。
実は彼女は良家のお嬢様で、実家が絶大な権力と財力を持っている。
双子姉妹とは別の意味で、この学校に強い影響力を行使できるのだ。
生徒会室が双子姉妹を保護する鉄壁の要塞になっているのは、アズサが裏の権力を使っているからに他ならない。
泣く子も黙り、イキる輩も寝込む報復手段を無限に用意できるのだから、それは強い。
正規の生徒会メンバーはアズサと真理佳、それともうひとり――。
「田中君、何か今日は静かだね?」
窓際に佇む男子生徒を見て、紅愛が首を傾げる。
大柄でがっしりした体格、濃い顔立ち。
彼こそ生徒会長、3年生の田中
1年時から生徒会に所属し続けている優秀な男である。
信治は腕組みをしながら、生徒会室のロッカーをじっと睨んでいた。
それからおもむろにロッカーの扉を開ける。
裏側には長半紙が貼り付けられていて、荒々しい筆致で『いつでも気合』と書かれていた。
いきなりその半紙ごとロッカーの扉を叩いて――、
「いつでも気合!!」
と、叫んだ。
生徒会室がシーンとなる。
信治はゆっくりとロッカーの扉を閉めた。
「……外したか」
「え? なに、なにがあったの?」
紅愛が困惑していると、真理佳が説明した。
「今度、学校説明会用の動画を作る予定なんです。そのときにやろうとしている一発芸みたいで」
「一発芸って言うな! パッションの表現だよ、パッション!!」
途端に熱く語り始める信治。
だが真理佳もアズサも聞いていない。
すると白愛が遠い目をしながらつぶやいた。
「田中信治氏……1年生のときはもっとまともで優秀だったのに。すっかりバラエティー畑の人間に……」
「お前らのせいだろーがっ!」
魂の叫びを上げる信治。
白愛の言うとおり、双子姉妹が生徒会預かりになった当初は、信治は普通に真面目で優秀な役員だった。
なにせ2年の早い段階から生徒会長の重責を担うくらいだ。
それが、紅愛と白愛が注目されるようになってくると、「本物の生徒会長より生徒会長っぽい」「てか会長って誰?」などと言われ、信治の影はどんどん薄くなっていった。
生徒会長は学校のシンボルであるべし。
そのためには注目されなければならない。
生真面目にそう考えてしまった結果、2年次からキャラが迷走してしまった可哀想な男である。
裏の権力者、アズサ。
優秀な事務官、真理佳。
永遠の噛ませ犬、信治。
この3人の生徒会メンバーによって、星乃台高校は驚くほど平穏を保っている。
「紅愛先輩、白愛先輩。学校紹介のスピーチ原稿を作ったので、録音に協力していただけませんか? さすがに顔出しはNGだと思うので」
「それくらいならぜんぜんいいよー。任せて――って、あれ?」
ふと、紅愛がスマホの画面をチェックし始める。
白愛と顔を突き合わせて、ボソボソと話し合う。
「――GPSに反応……パパが早退……?」
「――数時間早く会えるチャンス……ではなく、何かよからぬ事態になっていたら大変です」
生徒会メンバーが怪訝そうに双子姉妹を見る。
スマホをしまった紅愛は、完璧な営業スマイルで真理佳に言った。
「ごめんね、真理佳ちゃん! ちょっと急用ができちゃった。白愛と一緒に、先帰ってもいい?」
「え? ええ、まだ締め切りには余裕がありますので……」
「ありがと! 白愛、行くわよ」
「紅愛さま、白愛さま! お急ぎでしたら、アズサのリムジンで現場までお送りを!」
「控えなさい、蓬莱さん」
「へぅっ!?」
女優、涼風白愛の芝居がかった一言により、恍惚の表情で撃沈するアズサ。
彼女らを残し、紅愛と白愛は慌ただしく生徒会室から出ていった。
再びシーンとなった室内に、真理佳がペンを動かすカリカリという音が響く。
おもむろに信治が隣のロッカーを開け――、
「いつだって、元気!!」
「あ、ソレもういいです。後で捨てますね。貼り付けてるゴミ」
バッサリ言われ、現生徒会長はその場に崩れ落ちた。
【10話あとがき】
双子姉妹の平穏な学校生活には、濃ゆーい生徒会メンバーが絡んでますというお話でした。
やっぱり生徒会はこれくらい問題児が集まってないとね?
勝剛の身に何かあったのか?
それは次のエピソードで。
生徒会メンバーとの絡みをまた見たいと思って頂けたら(頂けなくても)……
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