それは魔法すらも凌駕する
あれから暫くは私を抱きしめながら泣き止むのを待っていたアマンダは私が落ち着くとそう言えばと話し出した。
「こんな事になっている状況を詳しく聞きたいわ。『シュリーなんて人はギルドにいない』って言われるし、私のお店の事を相談しようと思ったらマスターは急に居なくなっちゃうし……。」
私だけ可笑しくなったのかと思ったわよと肩をすくめるアマンダにふと疑問に思った。
(ジャックは事件に関係ない人の記憶は書き換えられるって言っていた。---だったらアマンダが記憶の書き換えが行われていないって事は……)
安心できる腕だと思っていたものが急に蛇に巻き付かれている様な感覚になって慌ててアマンダから距離を取った。いきなり突き飛ばした私の行動にアマンダは動揺していた。
「シュリー? どうしてしまったの? 」
(駄目だわ、何て返答すればいいか分からない)
率直にマリアベルの関係者か聞く? いや、もし肯定の返事が返ってきた場合は他にも人が潜んでいる可能性が高いし、そうなれば私じゃ状況を打破することは出来ない。---ジャックやリリアナがいないと自分の身すら守れないなんて情けなくて涙が出そうよ。
(兎に角、何か話さないと……)
そう思っていると急に後ろから肩を抱かれて驚いたがこの屋敷で私にこんな行動をする人なんて1人しかいない。
「ジャック……。」
安心して思わず彼に寄りかかると驚いた様な表情をしてから気を遣うようにどうかしたのと聞いてきた。
「……彼女に貴方の認識阻害の魔法が効いていないの。」
それはつまり、私を死に追いやったマリアベルの関係者になると示していると分かったジャックは勢いよくアマンダの方を向いたが私の予想と反してあれっ? とキョトンとした表情をしていた。
「君、俺の魔法をはじき返しているね。何でだろう? 」
ジャックがそう尋ねるとアマンダは手で顔を覆ってふぅーと長い溜息をこぼして聞きたいのはこっちなんですがと困惑している。
「そう言う事情も含めて説明してくれますよね? これだけそれっぽい事言っておいて話さないなんて選択肢があるなんて思わないでくださいね。」
お互いが微妙な空気の中私達は準備していた応接室に向かうのだった。
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「……成程、そんな事になっていたのね。」
用意したお茶を受け取ったアマンダに全て事情を話したら眉間にしわを寄せて苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。
「本当にびっくりよ、そんな話は本の中だけで充分だわ。」
彼女も最初は敬語で話していたけど私もジャックも普通に話して欲しい事を伝えるとじゃあ、遠慮なくと普段の話し方になった。
「私もびっくりしたわ。まさかアマンダがあの有名なお店のお針子だったなんて。」
そう言うとこの話の後じゃ驚くことでもないかも知れないけどねとアマンダは話し出した。
「うちのギルドが情報収集に長けている事は知っていると思うけど、ヴィクトワールはその収集場所の1つなの。情報屋が酒場なんてイメージだったらナンセンスだわ。」
(そっか……アマンダのギルドでの本当の仕事は情報収集だったのね)
同僚ではあったけど、ギルドでの暗黙ルールが多かったせいで私は彼女の仕事自体は把握していなかった。頻繁にギルドにいるものだからてっきりギルドの事務処理を担っていると思っていた。
「それって大変じゃない? 聞く限りじゃ相当な有名店だろう? よくギルドに行く時間を捻出が出来たね。」
ジャックがそう言うとアマンダはゴミを見るような目で彼を見ていた。如何やら包み隠さずに話してしまったせいでジャックの好感度は地に落ちているらしい。
「元々、自分の店を持つことは夢だったわ。その事を前ギルドマスターに相談したらギルドに利益が出る事を証明しろなんて言って準備してて、ふたを開けたら条件付きだったってわけ。利益=お金だなんて考えていた私が浅はかだったわ。」
(アマンダの様にそう考えるのが普通だわ。ヨハンってばアマンダにそんな大変な事を任せていたなんて……)
それこそ寝る魔も惜しんで仕事をこなしていた筈だ。そう思っているとジャックがアマンダにそんな事よりさと話し出した。
「何で俺の魔法が効かなかったのか心当たりはある? 君の様な子がいるって事は他にも君の様な人間がいるかもしれない。」
(確かに、アマンダの様な魔法が効いてない人間がいるとしたら何か規則性がある筈だわ)
可能性とすれば体質だろうか? しかし、魔力に耐性がある人でもジャックの魔法をはじき返す事が出来るのはごくわずかだと思う。そんな事を考えているとうーんとジャックは顎に手を添えて考え出した。
「正直、君からは魔力を感じないし、そんな人が魔力に耐性があるとは思えないんだよね。特異体質にしたって無効化は聞いたことはあるけど弾き返す体質は聞いたことが無い。皆が可笑しくなる前に何か変わったことした? 」
「知らないわよ。しいて言うならシュリーはどうしているか寝る前に考えてたくらいだけど、それは毎日の事だから特別な事は何もしてないわ。」
アマンダの言葉に嬉しくなって彼女にお茶のお代わりを入れているとジャックはそれだと言い放った。
「記憶の書き換えが脳内で起こった時にアシュリーを忘れたくないって気持ちが俺の魔法よりも強かったんだ。だからはじき返す事が出来た。」
「そんな精神論がまかり通るのですか!? 」
ジャックの推察に思わず声を上げてしまった。だって、気持ち次第で魔法が通用しないなんて聞いたことが無い。
「理論上はあり得るよ。魔法の元は空想を現実にする学問だからね。実体のないものである感情と空想から生み出された魔法、土俵は同じだから反発が起きて今回は感情の方が競り勝ったって事だね。」
そんな現象は俺も見た事ないけどと言いながら私達を見て微笑んだ。
「俺の魔法よりもアシュリーを忘れたくないって思いが強かったってだけだよ。……俺もそうやってアシュリーに愛を証明出来たらいいんだけど。」
ジャックが羨ましがっているアマンダを見るとふふんドヤ顔をしていたので少しいたたまれない気持ちになりながらも口角が上がるのを抑える事が出来ずににやけてしまうのだった。
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