困った時に助けてくれるのは……
「あんな事言ってしまったけど、これからどうしよう……。」
執務室は使い物にならないので紙とペンを用意して自分の寝室のテーブルでうんうんと唸っていた。
「取りあえず、お母様に手紙を書いて助けて貰おう……。」
本来なら伯爵であるジャックが花嫁を迎え入れる準備をしなくてはいけないが、家族内でやるならまだしも作戦としてはマリアベルが食いつくような結婚式にしなくてはいけないので、これを任せるには荷が重いと思うから私がやる事に関しての文句はないけど……。
「悲観したって仕方ないわ、今決めれるものを決めよう。」
そう言って気合を入れなおしてからやるべきことを箇条書きで簡単に書いていく。
「やっぱり最初に手を付けるべきはウエディングドレスよね。馬鹿にされない様に出来る限り有名なデザイナーが好ましいんだけど……。」
どれも揚げ足を取りたい貴族の審査対象だろうけど、婦人方が真っ先に目に行くのはドレスだろう。
欲を言えば王家御用達の『エテルネル』でドレスを作りたいけど、伯爵家の資金では作れないし実家の持参金を頼れば出来なくはないがジャックの肩身が狭くなるだろう。
「ジャックは気にしないでしょうけど、それを理由に私が笑われるような事態になった時は……。」
命が危ない、主に参列してくれる貴族が。想像するだけで頭が痛くなる事態だ。
「何でいけ好かない貴族の心配をしなくちゃいけないんだろう。---いえ、私が守らないと『私のせいで』本当に人が死んでしまうわ。」
そう考えると少し怖くなった。ジャックは私の為なら人の命を簡単に奪える様な人なのだから私の軽はずみな言葉1つであっさりと実行するだろう。しかも、彼はそれを非道な事だと知っていながらしようとするのだから余計に質が悪い。
(いやいや、そうならない為にこうやって考えているんでしょ。弱気になってしまったら駄目、1つずつキチンと問題を解決していかないと)
そう思いながら改めてドレスのデザイナー候補を考えていると、ふとギルドでアマンダ達が話していた会話を思い出した。
「そうよ、『ヴィクトワール』なら可能性があるわ!!」
『ヴィクトワール』は数年前に出来た仕立て屋さんだ。最近では上流貴族のご令嬢もそこで買っていて、尚且つ前に働いていたギルドでの伝手がある。こんな好条件の仕立て屋を何で思いつかなかったのかと気持ちが高揚していたがあることに気が付いて一気に落ち込んでしまった。
「あのお店は早くて3か月、遅かったら数年単位の予約待ちって言っていたわね……。」
あのお店は料金設定の幅がとても広く、比較的にリーズナブルな価格で流行のドレスを買えるが、その分当たり前だけど買いに来る人は後を絶たない。
貴族だけでなく少し資産を持つ人であれば貴族でなくとも娘のドレス仕立ててあげたいという家族や婚約を成功させるための一張羅を買いに来る娘の結婚に命を懸けている没落寸前の貴族も買いに来るのだとアマンダ達は言っていた。
「聞くだけ聞いてみて無理そうだったら別のお店を考えましょう。」
そう言ってさっき片づけたレターセットを再び準備してアマンダに手紙を書くのだった。
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4日後、驚くことに私は今ヴィクトワールの針子が来るのを玄関前で待っていた。
「緊張するわ……。」
アマンダからの思った以上に返信は早く、何と翌日には返事が届いて3日後にはヴィクトワールの仕立て屋がこちらに伺ってくれると聞いて慌てて応接室を綺麗にしたのだ。
「こんな無茶な要望を聞いてくれるなんてアマンダとよっぽど仲がいい人なのかしら? 」
若しくはとんでもない金額を請求されるかの2択だけど余り多くは払えないという事情はアマンダには話しているからそこは上手くぼかして話してくれていると思いたいけど……と思いながら待っていると門の前に馬車が止まったので迎えに行くと予想外の人物が馬車から降りてきた。
「ア、アマンダ!? どうして此処に!? 」
するとアマンダは綺麗なお辞儀をして、見た事のない淑女の微笑みを浮かべていた。
「この状況で分からないとはアシュリー伯爵夫人は聡明とお聞きしておりましたが違ったのでしょうか? 」
「あ……。」
そうだ、アシュリーが生きていると認識に塗り替えたのだからシュリーとしての人間関係は白紙になってしまったのをヨハンの件ですっかり忘れてしまっていた。
(アマンダとの信頼関係が無くなってしまったことに今気が付くなんて……)
動揺してしまって初対面の対応が出来ずにうつ向いて言葉を失っているとアマンダはフフッと笑ってこちらに歩いてきた。
「少し意地悪だったかしら? でも、これくらいの文句は言いたいわよ。何も言わずに消えてしまったんだから。」
顔を上げると私の知っている表情をしたアマンダがそこに居た。
「---親友が助けを求めてるんだから飛んできちゃったわよ。」
その言葉にとうとう耐えきれなくなりアマンダに抱き着いて泣いてしまった。
「泣き虫なのは相変わらずね。……取りあえず元気そうで良かったわ。」
そう言ってわんわんと泣きつ続ける私をアマンダは以前と変わらない態度で私を優しく抱きしめてくれたのだった。
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