結局はこういう人が欲しいものを手に入れていく
あれから話し合った結果、ヨハンの処遇については予想外なものとなった。
「本当にお咎めなしで良かったのですか?」
ジャックが下した処遇に文句を言う権利は私にはないけど、決して少ないとは言えない損害がある以上何か罰が下るだろうと思っていたのでその真意が気になった。
「アシュリー達が10年間お世話になったギルドを解体する事になるのは嫌だったから。」
心象悪いでしょって笑っているけど、元から悪い心象を彼は気にするだろうか? それに、これからの金策については一体どうやって補填するつもりなのだろうか。じっとジャックを見れば、告発してもあんまりメリットが無いと言った。
「それに俺が処罰を下せば周り巡って俺に依頼していた王室と繋がりがある貴族にも報告がいくでしょ? そうなったらヨハンを絶対悪に仕立て上げて捕虜として捕まえるわけだけど、あっちからしたら使い勝手が良い駒が一つ増えるだけ。どの道、俺らには訴えても見て見ぬふりをしても損することが目に見えてるなら王室の利益にならない方を選んだ方がいいかなって思っただけ。」
(確かにそうかもしれない……)
ジャックに目が行きがちだけどリリアナが師匠と呼ぶくらいにはヨハンだって十分強い魔法使いだ。そんな彼が捕まったら大義名分のもと王室は彼を使ってこちらに不利な状況を作ってくるだろう。マリアベルの戦力をわざわざ作ってあげる義理は無い。
「此処まで思いつくのに何故、領地運営についてはこんなヘマをしてしまうんですか……。」
ここまで頭が回るのであればこんな惨劇になった理由が分からなくて思わずため息をついてしまうとジャックは頬を掻きながらえへへと笑った。
「敵意がある奴を見ると大体どんな事してくるか分かるんだよね。」
「今現在において敵意のある人から搾取されている状況にはどう説明されるんですか? 」
そういうと彼はきょとんとした表情でこちらを見ている。
「これくらいじゃ俺は損をしているって思わないよ? ヨハンに聞いたのだって疑問に思ったから聞いただけだし。正直ヨハンのしたことには俺は怒ってない。」
(怒ってないっていうより興味がないだけなんじゃ……)
魔法伯爵の称号が継続しない理由がなんとなく分かった気がした。皆がみんなこの思考なら直ぐにはく奪されるだろうし、伯爵になった本人は地位に興味がないからあっさりと平民に戻って暮らしているかもしれない。
「結局見て見ぬふりをするならこれからも指定された金額で売る事になりますし、このまま何もしなければ伯爵の地位は維持が難しくなりますがどうするおつもりですか? 」
そう言うとジャックはにっこりと笑って勿論ヨハンに償って貰うよと言ったので疑問に思ったのが顔に出ていたのか大丈夫と私に声をかけた。
「俺はヨハンがどういう奴なのか知ってるからアシュリーにちょっかい出した事怒ってないんだよ。」
「やっぱり話を聞いていたのね!! あっさり引き下がるから可笑しいと思ったわ!! 」
確かにジャックが私に異常ともいえる執着を見せるようになったのにヨハンの言動については何も無いのが些か可笑しいとは思っていたのだ。でも、それを指摘するのは恥ずかしくて出来なかったので思わず敬語が抜けてしまった。
「やっぱりその口調の方が素なの? 俺にだけその態度なの? うれしいなぁ……抱きしめてもいい? 」
「いいわけないでしょ!? 」
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結局、あの後は話が流れてあれ以上の話し合いは出来なかったけど数日後にジャック宛に来た書類で事態は思わぬ方向に流れた。
「ヨハンがギルドを辞めてその後任がジャックになった!? 」
驚いてジャックが持っていた書類を奪い取って確認しても彼の言った事と同じ内容が書かれているだけだった。
「ヨハンなら絶対にこうするって思っていたんだ、本当に予想通りの展開で面白みは無いけど、これで少しは資金源になるだろ? それに、このギルドは世間の噂や情報を集めるのも得意ってヨハンから聞いていたから前々から欲しいと思っていたんだよね。」
ヨハンにどうやって辞めてもらうか凄く悩んだんだよと言う言葉を聞いてからの本来の目的をやっと理解した。
「最初からこのギルドが欲しかったんですね。」
ギルドを一から作るのではなく奪うってところに彼の屑さが際立っている。
「ヨハンは自分に起こった出来事に酔う癖があったから今はアシュリーを思って身を引いた自分に酔っている頃だと思うよ。」
(確かにそう言う性格をしているかもしれないけど)
そうは言っても交友関係をぶち壊してでも手に入れるというこの気概がヨハンには足りなかったのだろうなと書類を見て微笑んでいる彼を見て思うのだった。
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