魔法伯爵の仕事……?
「俺が何の仕事がしてるか知りたいって? 」
書類だらけの部屋を出て向かった先はジャックの仕事部屋だった。
辺りを見渡すと書類も勿論あるけれど、棚に並べられた鉱石や分厚い本が特に印象的な部屋だ。
「仕事に首を突っ込む気はないけれど、これから屋敷の管理は私がすることになったからどの位の予算で組むべきかで気になったの。」
余りにもあけすけに聞いている自覚はあるけど彼自身にオブラートに包んで話したところ逆に話がややこしくなるのは目に見えていたし、当の本人もこの物言いに対して何も言ってこなかった。
(自分と同じ物言いをされて酷い! 傷ついた! なんて彼に言われたらキレる気しかしない)
そんな事を考えていると彼は地図を持ってきて広げた地図を指さした。
「基本的には王室からの依頼でこの国に魔獣が入らない様にこの関所まで行って定期的に結界を張りなおしているよ。後は貴族に頼まれたの魔法薬や魔法具を定期的に売りに行ってる。」
そう言って依頼品リストと報酬金が載っている書類を見て思わず絶句してしまった。
(労力と報酬が見合ってないわ……明らかに安すぎる)
ギルドで働いていた時もヨハンの意向で出来る限り色んな人が買ってくれるように良心的な値段で売ってはいたけどそれはギルドに利益が出る程度の話だ。此処まで来ると詐欺レベルの話になってくる。
(王室がジャックに魔法伯爵の位を与えた意味がなんとなく分かったわ)
要は大金を出して手に入るものを価値が分からないジャックは簡単に作れるからこれくらいが相場だろうと思わせて王室や貴族が魔法の恩恵を安値で手に入れたかったんだろう。当の本人は不自由なく暮らせたら良いくらいの感覚でいるし文句も出てこないって事は手間がかかっているなんて思ってもいないんだろう。
(双方に利益があるって両者が思っていればいいと個人的には思うけど、これは明らかにこちらを見下した取引だわ)
このままジャックに金銭交渉を任しておけばこの家の家計は火の車になることは明らか。私の表情から何かを感じたのかジャックが話しかけてきた。
「俺はこんな高額な取引したことないから分からなかったけど、どこか可笑しかった? 」
「言いたいことは沢山ありますが、此処から関所までだと支払って貰っている金額じゃ往復の交通費程度しかないですし、魔法薬や魔法具に至っては支払って貰ってるのは材料費以下ですよ。」
因みに、良心的と言われる相場の値段を横に書きますねと言って材料費や人件費を込々で修正していくと彼は驚いた顔をしていた。
「こんなに払って貰えるの? 関所なんて転移魔法でそこまで行けるし鉱石とかも俺が調達できるからこんなものだよなって思ってたんだけど……。」
やはり価値観が違う事を利用されたなと思って出来る限り分かりやすくなるように例え話を出した。
「魔法具に使われる魔法石は大粒の宝石よりも価値があるとされていますが、貴方は宝石の付いたアクセサリーをこの値段で見た事ありますか? 」
そう言うと思うところがあったのか彼はしゅんと落ち込んでしまった。分かってくれたのは良かったけど問題は其処ではない。
「貴方は魔法の才能はあるでしょうがこういう類に疎い事は貴方自身が分かっていたと思います。それなのに今まで違和感なくこの取引をしたのはこの値段で問題が無いと思っていた理由があるはずです。」
いくら無頓着だと言え、彼だって違和感はあった筈だ。だから確認の為に聞きに言っただろう---その手の商売をしている彼に。
「ヨハンにこの交渉金額で合っているかの確認をしましたね? 」
私の問いに頷くジャックを見て頭を抱えるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます