伯爵夫人としての仕事は前途多難
リリアナの誕生日から始まった私自身が予知していない方向へ未来が進み始めて早1ヶ月が経ち、私は伯爵家本邸の廊下を歩いていた。
ジャックの『屋敷氷漬け事件』の後二人で話し合った結果色々と結婚についての決まり事が当初とは変わったのだ。
1つ目は住む場所を離れの屋敷からこの本邸に移す事だった。あの離れは居心地が良かったし私達が移る理由も無かったので最初は反対したけど、そうすると今度は彼が離れに住むと言い出したのだ。
現状は本邸に人が全くいない状態だったので人が居なければ自然と家は傷んでいくし、何より本邸が無人なんて本末転倒が過ぎるので移り住むことにした。因みに離れの屋敷はリリアナのアトリエになった。
2つ目は魔法で作った契約書破棄だった。正直、困るのはジャック自身では? と疑問に思ったけど今のままでは誠実性に欠けるからと躊躇なく破ってしまった。彼から誠実性の言葉が出て驚いていると、ジャックは別の契約書を作っていた。
それだけなら別に良かったのだけど、契約内容を見た時は焦ったし流石に止めた。内容が私がされて嫌な事をしたらジャック自身が死ぬという内容の契約書を見た時には彼は死以外の責任のつけ方がないのだろうかと内心引いてしまった。
そんな事があり、私達の荷物を本邸につつがなく運び終わったので今日から始めるのは女主人としての仕事だった。
最初の契約時ではしなくて良かったけど前の使用人の件もあったので契約が無くなった今、こちらの管理を彼から引き継いだけど部屋に広がる光景を見て少し早まったかなと後悔していた。
「ジャックがこの部屋に入れたがらない理由はこれだったのね。契約書の内容に書くくらいだったから、こういう処理能力の自信があると思ったんだけど。」
呆れながら見渡すと私用となる予定の執務室に広がるのは一面の書類の山。恐らくは彼が魔法伯爵になってから今までこの業務を行っている人はいないと思って間違いないだろう。
(書類仕事だけに集中出来るならまだ……いや、こんな量出来るか!! )
帳簿の整理と使用人の配置、屋敷の模様替えやジャックに目を通してもらいたい書類の内容確認等が尋常じゃないくらいに溜まっている。一刻も早くどうにかしないといけない。
「唯一救いなのはお茶会に何処にも御呼ばれしていなかったことね。いや、本来は良くない事なんだけど。」
婦人たちが開くお茶会は社交界の情報交換や力関係の把握の場所になっている為、マリアベルの動きを確認するためには出来れば参加したいけど彼女達からしたら成り上がりの魔法伯爵の夫人を呼ぶメリットがないから声をかけてくれる人は限られてくるだろう。
(手っ取り早いのは、昔に交流があった令嬢をお茶会に呼ぶ事なんだけど今の状態じゃ呼ぶのは難しいわね……)
何せこの屋敷には本当に何もない状態なのだ。権威を示すためのインテリアどころかお客様用のティーセットもないし、何よりジャックが全員解雇してしまったお陰でこの広い家の家事は私達3人でやっている状態だ。そんな状態でお茶会を開いたところでいい評価を得るのは難しいだろう。
「インテリアは私が考えるとしてあの人から予算を……ってそもそもジャックの仕事は私が思い描く伯爵家当主の仕事で合っているのかしら? 」
どうやらお茶会を開くのはまだ先の事になりそうだ。
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