食の好みは父親似だったらしい

「どうしたの、こんな所に来てさ。」



料理長から食材をもらい受けて帰る途中にジャックと鉢合わせてしまい、隠し事をしていると思われるのは嫌だし、特にやましい事はしていないので素直に話すことにした。


「夕ご飯の食材を取りにきたんです。」


籠の中身を見せるとへぇーと興味がなさそうな返答に何で聞いてきたんだと若干の怒りを感じ、さっさと帰ろうと足を進めるとジャックは不思議そうな表情をしていた。



「ご飯は料理長が作ってくれるじゃん。何で君が作っているの? 」



ジャックの問いかけに私は前々から思っていたことを口にした。



「料理は個人的な理由が大きいですけど、今一度使用人の見直しをした方がよろしいかと思いますよ。」



正直、ここに来てから料理をすることは難しくなるんじゃないかと思っていた。相手からしたら仕える人に自分の仕事をさせるような事だから説得に時間がかかるのは覚悟していたがそうはならなかった。



(個人的には助かったけど、あれは親切心からではなかったわ)



料理長は私の我儘に快く頷いてくれたけど、ギルドで働いていた時に良く見た表情をしていた。あれはどう見たってサボる理由が出来て幸運だという表情だ。



「彼らは給料通りの与えられた仕事をこなしているよ。」



「ええ、本当にその通りですわ。だからそれ以上の事はしない。」



辺りを見回すと確かに床や窓の掃除はしているけど、完璧に磨かれてはいないし階段の手すりは埃がついていた。恐らく仕事内容には入っていないのだろう。



「払っている以上のお仕事を彼らに任せるのは可哀そうだろう? 」



言っている事は正しいけどそう言うわけにはいかないのだ。



「貴方に忠誠を誓う人を置いてください。お金で動かれてはより良い金額を出す相手に従い、貴方やリリアナを害する可能性が高いんですよ。」



この世界では、国は国民を守らない。



この国の法律の根底は王族を守るためにある。

いくら貴族であったとしても蹴落としあいの貴族社会では法は私達の助けになんてなりはしない。



(実際に私は死んだ人扱いなされているんだから)


信頼している人から裏切られる事もあるけど、この使用人の働きを見てそう思わざるを得ない。

疑わしきは罰せずではあるけども、攻撃される可能性は出来るだけ低くしておきたいと伝えると分かったと言っていたが、ジャックのこの態度では伝わっているのか怪しい限り。



(まぁ、伝えられただけ良しとしましょう)



そう思ったのに---



「何でお父様がここにいるわけ?! 」



リリアナがジャックに威嚇していたけど当の本人はどこ吹く風で私達に与えた屋敷の中を見回していた。



「随分と綺麗にしているんだね。」


「まぁ、私達が住む家なので綺麗にしたいですしリリアナも手伝ってくれるのでそこまで苦ではありませんよ。」


離れとはいえそこまで大きな屋敷ではなかったので使用人が居なくてもリリアナと協力すれば午前中には掃除は終わってしまうのだ。


(この人何時までいるのだろう……)


此処までついてきた理由は分からないけど、もてなしもせずに帰すのは気が引けたのでジャックに問いかけた。


「今から夕ご飯を食べて行かれますか? 一時間ほどお待ちいただきますが……。」


そう尋ねるとこの展開を予想していなかったのかキョトンとしてから君たちが良ければと言ってもじもじしている。


「ではリリアナと一緒にお待ちください。用意が出来たらお呼びしますので。」



そう言って台所へ向かい、料理の準備をしている時に気が付いたが今日はオムライスだ。彼はこのご飯を食べてくれるのだろうか。



(まぁ、食べなければ明日の私のお昼ご飯にすればいいわ)



そんな事を考えてオムライスを作り二人の元に持っていくと思った通りの感想をジャックは呟いた。



「これは何? 見た事もない料理だけど……。」


しげしげと見つめるジャックに好物をそんな目で見られるのが嫌なのかリリアナは不愉快そうな顔をしていた。



「嫌なら食べなければいいじゃない。玄関の場所はご存じよね? 」



遠回しに食べないなら帰れと言って食べ始めたリリアナを見てジャックもスプーンを握って恐る恐る一口食べた。



「……美味しい。」



その言葉を聞いたリリアナは嬉しそうに顔を綻ばせた。



「そうでしょう! お母様が作る料理は世界で一番おいしいんだから!! 」



そう言いながら二人はご飯の事や待っている間に話していたであろう魔法の話をしていて想像以上に夕ご飯の時間は穏やか空気が流れたのだった。






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