追放される悪役令嬢だと思ったら産んだ娘が『稀代の悪女』だった

束の間の平穏は復讐への入り口

鳥の囀りと卵とベーコンが焼ける音。そして、テーブルではリリアナが朝の紅茶を選んできて朝の準備を手伝ってくれてる。

（そう、いつもと何も変わらない……）

強いて言うなら、リリアナの表情が険しいくらいだろうか。……おおよその検討はついてしまうけど。

「へぇー、お茶の準備はリリアナがしてるのか。どんなのか楽しみだなぁ。」

そう言いながら朝ごはんが準備されていくテーブルを見つめながらリリアナに話しかけているのはこの家の家主のジャックである。何故此処に居るんだという表情を隠しもせずに話しかけている。

「あら、お父様。朝からこちらに来るなんて今まで無かったのにどういったご用件で来られたのですか？ 」

私の心の中を代弁するようにリリアナが訊ねるとジャックはにっこりと笑って答えた。

「君のお母さんのご飯が料理長のご飯よりずっと美味しいって言ったら料理長が居なくなってしまったんだよ。」

新しく探すからそれまでは食べさせてよというジャックに対して思う事は色々あったけど、もう呆れるしかなかった。

料理の修行もしていない女の料理に負けたと思った彼のプライドはズタズタだろう。けれど、料理人として簡単にお仕事を飛んでしまったという事は此処に対して未練も情も無かったという事になる。

(だから使用人を見直せって言ったのに)

今回のような事が頻繫に起こることは避けたい。今は私が作ればいいかもしれないけど来賓時は流石に私の手料理を出すわけにはいかないし、同様な事が他の所でも起こったらたまったものではない。

(此処に来たって事は今日のお友達はご飯を作ってくれなかったのね)

この屋敷で豪華な食事が出来ることもジャックと遊ぶ彼女たちの中でメリットだったのかも知れない。それが無くなってさっさと帰ってしまったのだろうと勝手に推測した。

このままじゃこの屋敷の家事全般を任されてしまいそうだと頭を悩ませていると案の定ジャックは最悪の言葉を口にした。

「もうめんどくさいから屋敷の事はアシュリーがやってよ。」

「一応の確認ですけど、それは私が使用人を決めると言う認識でお間違いないでしょうか？ 」

私の言葉にキョトンとしてから違うけどと言った。

「此処は俺の住んでる所より綺麗だし、ご飯も美味しいからあっちの屋敷に来てもらって全部やってもらいたいなって思ってる。」

その言葉に私が怒るよりも先にリリアナが私の前に出てきた。

「お母様はアンタの小間使いじゃないわよ！！！ 」

その言葉と同時にジャックは自分の住んでいる屋敷まで吹っ飛ばされていた。

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「最悪、最悪、最低すぎるわ！！ 本当にあの人はお母様を何だと思っているのかしら！？ 」

(最初からリリアナだけが目的だからなぁ……)

お昼に作ったサンドウィッチを大口を開けて食べるリリアナに今日は仕方ないかと注意するのを諦めた。

「あと数日で仲がいい親子のフリをしないといけないなんて……。あの人は女性を大切になんてしたことがないからあんなことが言えるんだわ。」

(鋭いな……、この様子じゃ私が隠す必要は無かったかもしれないわね)

ニコリと微笑むけどリリアナは騙されませんと言いたげな顔でこちらを見ていた。

多分、リリアナはジャックの交友関係については知っている。それでも文句を言わなかったのは気づかなかったからではなくて私達に被害が無かったからだと思い知らされる。

(この穏やかな生活も潮時か……)

リリアナの言う通りあと数日も経てば認識が書き換わり私を貶めた人たちが証拠隠滅の為に水面下で動くはず。そうなったら気を抜けない日々が始まるのだろう。

(絶対にやり遂げて見せるわ)

大切な人を巻き込んでしまった事実が私に重くのしかかる。

しかし、私はもう私自身の気持ちに気が付いている。

この重くのしかかる罪悪感よりも復讐の炎の方が大きいということに。