第8話

「いや、俺はスタミナ足りないから先輩と走ってこいって。お前こそ…どしたの?」

「あ、これは、その、」

一目でわかる。幼すぎる失敗が。慌ててシャツで濡れた部分を隠すけどもう遅い。そもそも、臭いでバレバレだ。

「と、とりあえず部室行こうぜ。下着はあるからさ!!でも服が…あ!先輩が予備の練習着持ってた!!」

「いい、きたない、し、」

「だーいじょうぶだって!シャワーで流せばいいだろ?ほら行くぞ」

「いいって!!…お前はいいよな、何もしなくても優しい先輩がいて」

「…嶋?」

何だろう、親切にしてもらってるのになぜか、イライラしてしまう。

「呑気にやってるだけで可愛がられて」

「…は?何言ってんの?俺が何の努力もしてないってことか?」

「だってそうだろ?先輩先輩ってへらへらへらへら。俺は恵まれてますって自慢?」

「いや普通に違うから。何ほんと、今日のお前感じ悪いよ」

最低だ俺。水城は何にも悪くないのに。何でこんなこと言ってしまうんだろう。ダメだって頭では分かっているのに。今日の俺、変だ。

「だって、ッヒ、ぐ、」

「なんだよ。って、え、え?」

こんなこと言ってしまう性格だからいじめられるんだ。水城みたいに明るくて素直なやつだったら、今頃上手くやれてたのかな。悔しい。何で俺はちゃんとできないんだろう。

「ッヒグ、う゛ぁ゛ぁ゛…」

「え、嶋!?あー、ごめん、いいすぎた、とりあえず落ち着けって、」

「っひ、も゛、やだぁ、ぶかつ、やだ、」

「ぅえ!?そ、そうだよな、毎日しんどいもんな!!」

胃は痛いし、だるいし。水城に当たっちゃうし。

「水城お前ー5分早く出発した癖に追いつかれてんじゃねえよ!」

「いや、その、先輩、」

「あ、お前昨日の…何、泣かせたの?」

「違いますよ!!え、でも、泣かせた…のか…?」

「…あーそういうことか。とりあえずお前はペナルティ走りきって練習に合流しろ。俺が連れてくから」

「え、でも…」

「任せろ。こういうのは慣れてるから。な?みーずきくーん」

「先輩っ!!忘れてくださいってば!!」

「うそうそ。じゃあ準備室からタオル何枚かだけシャワー室置いててくれ」

「あ、了解っす!!嶋ー、あんま気にすんなよーー!!」



「ッヒグ、ッヒッ、」

「おーい、聞こえてるかー?」

目の前でゆらゆらと手のひらが揺れる。早く泣き止まないと、そう思って何度も何度も涙を拭うけど、またボロボロと流れてしまう。

「すみ、ませ、」

「あんま気にすんなよ?着替えたら済むんだから」

「は、い、」

「手ぇ出して」

尿でぐちゃぐちゃの手を恐る恐る差し出すと、水をかけられ、洗い流されていく。

「気持ち悪いだろ。手だけだけど。あ、喉乾いてる?」

「いえ…」

「そっか。じゃあ」

「わっ、」

バシャっと頭から水をかぶる。びっくりした。涙が引っ込むくらいには。

「うし、上も濡れてたら目立たねえだろ」

「…あ、はい、」

「じゃあ風邪ひかねえうちに行くか」

「はい、」

先輩に手を引かれて歩く。泣きすぎてぼーっとして、頭が空っぽ状態。

(あ…)

ふと下腹部に感じる、違和感。びしゃびしゃで冷たくなった下着の中でソコがヒクリと疼く。


(おしっこ、またいきたい…)

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